小さい頃に養子に出されたすぐ上の兄は、父が大好きだった。
父だけじゃない。母のことも、あと二人の兄のことも、家臣たちのことも。
すぐ上の兄は父に話しかけるのが好きだった。
父は耳を傾けようとしなかった。
父は私の話も上の兄2人の話はよく聞いた。
誰よりも己に似た、すぐ上の兄の話だけを聞かなかった。
すぐ上の兄はそれでも、父によく話しかけた。
「父上は、孫の話をなぜ聞かないんだ?」
父は、笑った。
「孫は寂しくないのか?」
すぐ上の兄は笑った。
そして私を抱きしめて泣いた。
「千熊ちゃんっ・・・大丈夫・・・大丈夫。・・・私は、大丈夫だよ。」
大丈夫なんかじゃないじゃないか。
「みんな、大好き。」
見えない言の葉を私に絡め、すぐ上の兄は逝った。
私は、沢山の見えない糸に足がもつれて、上手く前に進めなくなってしまった。
了
ご要望があり再録しました。
小さい頃の盛親(千熊丸)はすぐ上のお兄ちゃんである親忠(孫次郎)をどのように思っていたのかと。
千熊の素朴な質問にも笑顔で応えられるほど、元親の心の底に黒いものがあればいいと思う。