3文字限定話4(91〜)

ツイッターで「○○は「漢字1」「漢字2」「漢字3」の3文字を使って文章を書きましょう」という診断メーカーがあるのをご存知でしょうか。
某様と一緒にスカイプで話している時、よくこれを使ってお題を貰って小話を書いているのですが、溜まりに溜まったので、纏めてアップすることにしました。
甘凌はいつも書いているので(個人的にこれで甘凌をよく書いているため。)あえてそこは外し、凌統中心に孫呉のキャラや、西涼の二人、諸葛亮が多めです。
色々書いていますがいつもざっと書いているので、内容は似たり寄ったりかもです(特に策凌)。また、長さも長短まちまち。イラストを描かれる方の落書きのようなものだと思ってください。
暇つぶしにでも読んで下さればと思います。
尚、時々話を書くのに夢中になって、ちゃんとお題に応えていない場合もあります;
※印のあるものは性描写ありです。



▼クリックでお題に飛べます。
91馬超と甘寧92凌統と孫権93馬岱と斥候94丁奉95郭嘉と賈ク96子凌統と凌操97王異と馬岱98馬超と馬岱と甘寧と凌統99凌統と陳勤100甘凌101甘凌102孫凌103策凌104馬岱と斥候105凌統と凌操106甘凌107策凌108番外編甘凌18禁馬超×凌統110凌統※111馬岱と諸葛亮112陸遜と呂蒙113陸遜と凌統114甘寧と呂蒙115番外編:馬岱 116凌統と甲斐姫117甲斐姫と尚香118甘寧と凌統と甲斐姫119・甲斐姫と凌統120・甘寧と凌統




91馬超と甘寧は「根」と「柔」と「襲」を全部使って文章を作りましょう。

※90から少し続いています、岱凌カフェパロです。
「う〜、さびぃ。」
「あはは、おはよう。甘ちゃん、ってうわっぷ!どうしてそんなに薄着なのよお!」
「あぁ?だってコートとかねぇし・・・。」
「早くこっちきなって!そうだね、ココアでも煎れてあげるよ!」

歯の根が合わさらないほどに寒い冬の日。甘寧はいつものカフェにやってきた。
甘寧は幼馴染の凌統にこのカフェを教えてもらってから、ほぼ毎日入り浸っている。
一応大学生だから講義には顔を出しているし、週に4,5時間程度だけバイトにも行っているが、それ以外の時間はほぼこのカフェで過ごしていた。

何せ居心地がいい。そして、食べ物がどれも美味い。
今まで腹に入れば皆同じと思っていた甘寧であったが、凌統に連れられてサンドウィッチを食べてから開眼してしまったのだ。

いつもカフェに来て何をしているかと言えば、店員の馬岱と話をしたり、客の様子を眺めたり、それからテストの再試験レポートを書いたり。
それから、今みたいに朝飯を食べに来たり。
ゆったりとした時間を何もせずに過ごす。
甘寧は、出されたココアを一口飲み、ふうと一息。
ミルクの柔らかさが身にしみる。

「あれ。お前・・・」

と、寒くて気が付かなかったが、カウンターの端の席に一人の男が座っていた。
馬超だ。確か、同じ大学の・・・いつぞやの講義で一緒になった気がするが。
馬超はこちらを睨みながらぱくぱくとトーストを食べている。
目が合うなり鋭い口調でこちらを貫いてきた。

「何だ貴様、どうしてここにいる。」
「お前に言うことじゃねぇだろうが。朝から嫌な顔見ちまったぜ。」
「何だと!?」
「はいはい二人ともここはお店だからやめてね!」

と、二人同時に互いに襲いかかろうとしたところを馬岱が止めた。そして馬岱は甘寧に向かって苦笑い。

「あ〜、甘ちゃん。この人ね、俺の従兄なのよ。」
「従兄!?って…。全然似てねぇな。」
「うん、そうねぇ。でもまあ、仲良くしてくださいよ。あ、ほら。甘ちゃん、ご飯できたよ、どうぞ。」

空腹に勝つことはできず、そのまま甘寧はポテトサラダをがっつきはじめたが、その視線は馬超のほうを睨んでいて、一方の馬超も甘寧を睨んでいた。



92凌統と孫権は「味」と「震」と「慰」を全部使って文章を作りましょう。
孫権は、凌統が目を覚ましたと聞いて身体が震えた。
凌統が息をしているところを、目を開いているところを、心臓が動いて生きている所を一刻も早くこの目で見たいと思い、直ぐに足をそちらに向けたが、凌統の房に近づくにつれてその足取りは重くなっていった。
凌統は、己の身を守ろうとしてあらゆる者を失った。
凌統だけではない。
今まさに後ろにいる周泰も、この身を守って数えられぬほどの傷を負っている。

「・・・凌統は、泣いているだろうか・・・。」
呟いた言葉は所詮独り言。
周泰はこのような言葉を静かに流すことは知っている。
孫権は、思い切って凌統のところへ向かった。



「凌統。」
「・・・孫権様?」

凌統は身体中に手当てを施され、あまりもの痛々しさに目を覆ってしまいそうだった。
また、顔は笑っているが目元は赤く腫れている。
そして少し痩せたような気がした。
孫権が房の中に入ると凌統は覚束ない動きで寝台の上に座ろうとしたものだから、慌ててそれを制し、孫権は自ら寝台の縁に座った。
碧い瞳で凌統をじっと見つめると、凌統は居心地悪そうに目を泳がせた。

「孫権様・・・」
「すまない、凌統。よくやったな。」
「・・・。」
「私はいつも、皆に守られてばかりだ。皆が傷つき、倒れてゆくのを見ているばかりで・・・そんな自分が嫌で、皆と一緒に戦場に立とうとしてしまう。」
「・・・。」
「だが、その行動すら迷惑で・・・。」

我ながら情けないと思った。
味気のある慰めすら言えない。
そんな孫権の言葉を凌統は静かに聞いていたが、ふと小さく笑って孫権を柔らかく見つめた。

「殿が出てくれば、そりゃあ狙われるから危ないですけど。」
「すまん。」
「でも、それで兵が鼓舞されることだってあるんです。その時になれば殿の行動だって間違っちゃいないものになるんだ。・・・孫権様、俺、思ったんですけど。」
「何だ?」
「俺は・・・・・・色々なものを失っちまったけど・・・一番は殿を守るのが使命なんです。殿を失うのが一番嫌なことだ。だから、こんな風に殿が声をかけてくれるだけで、嬉しいんですよ。」
「凌統・・・。」
「ねえ、周泰殿?」

というと、入口の辺りに居た周泰が小さく頷いた。
ああ、どうして私はこうも幸せなのだろう。
どうして私はこうも駄目な人間なのだろう。
孫権は、凌統の手を握りながらその紺碧の瞳からぼろぼろと涙を零した。




93馬岱と斥候は「赤」と「惑」と「中」を全部使って文章を作りましょう。
孫呉の酒宴は酷いもので、無礼講で何人もの将が酔い潰れると聞くが、蜀の宴会は酒を酌み交わすというより、劉備を囲んで穏やかに皆と時を過ごすという風がする。
温かいものだ。
馬岱は静かに杯を傾けながら、酔って顔を真っ赤にした関平と全く顔色を変えていない関索兄弟のじゃれあいを眺めていた。
けれど、穏やかに過ごしているわけにはいかない。
諸葛亮から、この中に斥候が混じっていると聞いた。
そして、諸葛亮から合図が出たらそれを・・・。
誰だろう。五虎将であるはずがないし、魏延も違うだろう。
ふと諸葛亮を見ると、目があった。
引き込まれるような切れ長の奥の瞳が、部屋の外のほうへとずれる。
その視線の先にいたのは、一人の見張り。

(成程ねぇ。)

さて、仕事だ。
隣に座っている馬超が“どこへ行く、馬岱”と引きとめるのを厠へ行くと嘘をついてかわし、馬岱は懐の暗器を確認して腰を上げた。
暗い外に出る足取りは、誘惑に誘われる蝶のようだとらしくないことを考えて、溜息をついた。




94丁奉は「自」と「犯」と「裏」を全部使って文章を作りましょう。
丁奉は夢ではないかと目をこすった。
しかし、すぐに横から敵兵の矛が飛び出してきて柄を叩き折る。
「ほらほら、余所見してたら自分が殺られるぜ!」
口調も姿も。もう二度と見聞きすること叶わぬと思っていたあの将軍が、目の前で踊るように戦っている。
思わず零れそうになった涙を瞼の裏に押し込め、丁奉は拳を奮った―。

「わからないけど、俺は死んでるよ。」
戦が終わり、将軍から声を掛けてきて、丁奉は素直に体を丸めた。
「では、これは某がみている夢なのでしょうか?」
「・・・いや?拳の感触はあるだろ?」
・・・確かに。手を何度か閉じたり開いたりする感覚はまさしく現実のものだ。
では何故。何故そこに貴方は存在るのですか?丁奉は、声にならぬ声をあげて啼いた。だが、将軍は苦笑いしか浮かべなくて。
「分からないよ。・・・気がついたらここにいた。また孫呉に逢えた。・・・戦場だったけどな。・・・あんたの言う、美しい風景。今なら凄くわかるよ。・・・春になったら、また来たいねぇ・・・。」
そう言うと、将軍はふと消えた。
自然の摂理を犯してまで姿を現すなど。貴方は一帯、どんな死を迎えたのですか。貴方はどれくらい、この美しい国が好きだったのですか。
丁奉は、愛しい愛しい孫呉の大地をその腕(かいな)に抱くように、地に伏せて号泣した。




95郭嘉と賈クは「唇」と「隠」と「笑」を全部使って文章を作りましょう。
夜な夜な賈クは、男の邸に赴いた。
そっと潜り込んで男の寝室に近づく度に強くなる酒の匂いに片眉をあげ、室に至っては机上に酒瓶が乱立している始末で溜息をついた。
(死の寸前まで酒を飲むとはね・・・。刹那を楽しみたいのであれば、やめればいいものを。)
そんな机の奥の寝台には、薄い身体が横たわっていた。
近づいて見下ろしてみると、生きているのが不思議なくらいの白皙の男が、苦しそうな表情をして眠っている。

世の中には上にも下にも沢山人がいる。
この男は己より少し先に曹操の下についたから、少しばかり上の立場になるのだろうが、軍師としての仕事は分担していたし同僚という単語が一番しっくりくるのだが、半ば心外である。
そんな同僚は、今まさに命を終えようとしている。
ふいに、眠っていた男が瞼を開いた。
「やあ、賈ク殿。いたのか・・・。」
「死にゆく同僚に何か餞を、と思ってね。」
「・・・じゃあ、私は貴方のことが知りたい。好物を聞いてもいいかな?」
「酒ではないことは間違いない。女は物による。」
「では嫌いなものは?」
「曹操殿の無理難題、といったところか。」
すると男は小さく笑った。
「そうだね・・・。でも、貴方は嘘を言った。好きなものは策。嫌いなものは特にない。違うかな?」「郭、「私はね、貴方と一度、本気の知恵比べをしてみたいんだ。きっと楽しいだろうね。そして、貴方もそう思っている。」
確かに、確かに。一度、上下の関係なく同等の力を持つ者相手に知恵比べをしてみたいとは常々思っている。それを戦の度に楽しみにしているし、相手がいなかったとしても相当の策を練る。賈クは肩を竦めて鼻から息を吐いた。
しかし、次々とよく言葉の出る唇をお持ちだ。今まさに死の淵にある人間のものとは思えない。
でも、賈クは途中で止めることはできなかった。
「ご名答。策を練ること、策が成ること、策が覆ること。全て俺の至極だぁ。」
「貴方には、それしかないから?」
「・・・だね、しかし、どこでも頭を使えば楽しくなる。」
「・・・空しい性だ。」
「ああ。でも、刹那を楽しんできたあんたに言われたくない。」
「違いない。」
男が瞼を閉じた。
「・・・もう少し、賈ク殿と知恵比べをしたかったけれど・・・時間切れだ・・・。」
男は何も言わなくなった。 賈クは小さく息を飲み、小さく一礼しかけたところでそんなものをこの男に暮れてやるものかと肩を竦めて、闇に隠れるようにその場を後にした。



96子凌と凌操は「子」と「快」と「白」を全部使って文章を作りましょう。
凌操は常に早起きを心がけているし実行している。
しかし息子のほうはといえば、どうにも朝に弱い。家の者が起こしに行かないといつまでも寝ているし、朝飯を食べる時もよくうとうととしているので、そんな息子を凌操はしばしば叱咤していた。

が、その日は少し違った。

「父上、父上!!起きてください、父上!」

身体を揺さぶられながら、鳥のような快活な息子の声が降ってきて凌操は目を覚ました。
(まさか、統がしっかり目を覚ます時間まで寝過してしまったのか、いやそれ程昨日は酒も飲んでいないし疲れていないはずだが・・・。)
そう思いながら、陽は一体どれくらい上に昇ったかと窓辺に目をやると、まだ辺りは薄暗く、日の出の時間も向かえていないようだ。
また、真冬の朝は寒い。今などは邸の中であるというのに吐息が白くなって目に見えるのだ。

「阿統、まだ朝まで時間があるだろう。一人で鍛錬でもしていなさい・・・。」

凌操はもう少し眠ろうと毛布を被って寝返りを打った。
しかし、どうしてか今日は元気な息子は、今度は父の毛布を掴んで引っ張り離さなくなった。

「父上!!起きてくださいってば!」
「統、やめなさい。どうして今日はそんなに元気なんだ・・・」
「父上、外!外が真っ白なんです!」

外が真っ白?
凌操は仕方なく、ゆっくりと身体を起こすと窓から外を見た。
成程、これは身体の芯まで冷えるはずだ。夜の間に雪が積もっていたのだ。
しかしこの呉の地にこれだけ雪が積もるのは珍しい。…阿統が生まれてから、初めての積雪かもしれない。
凌統は窓からひらりと外に飛び降り、さくさくと心地の良い足音を立てて辺りを走り出した。

「父上!冷たいです!」
「それは雪という奴だ。前に聞かせた詩に出てきただろう。手が赤くなったら武器が持てなくからな、程々に遊ぶんだぞ。」

そして再び凌操は床に入った。
耳には近くで遊ぶ息子のはしゃぎ声。今が乱世だということが信じられないなと思いながら、瞼を閉じた。


その日の凌家の邸入口には、小さな雪だるまがふたつ飾られていたという。




97王異と馬岱は「晩」と「立」と「爆」を全部使って文章を作りましょう。
戦のあくる晩、馬岱は静かに一人杯を傾けていた。
珍しくそういう気分になったのは、昨日の戦で見た女性の言葉があるから。

“恐ろしい男・・・。その仮面の裏の顔、味方に知られないといいわね。”

今にも涙がこぼれ落ちそうな瞳を持った女性だと思ったら、次の瞬間にはとてつもない憎悪に歪んだ笑みを浮かべて迫ってきた。

妖筆で風を描いて女に叩きつける。が、細い身体は天高く躍動しこちらに獲物の刃を振り下ろしてきた。
が、そこに馬超の槍が伸びて、女の腹に槍の柄がめり込んだ。
体勢を崩して落下した女は立つことままならず、味方の兵に担がれるようにして撤退していった。その際に吐き捨てたのがあの言葉・・・。

(あの一瞬で、俺の本性を?)
(でもちょっと違うんだよねぇ。)

敵に向ける顔と、味方に向ける顔が違う人間はどこにでもいるはずだ。
それに、あの人が狙うのが若なら、若に振りかかる火の粉を払うのが俺の役目なんだから、そう思って当然なのだけれど。

馬岱は溜息をついた。
あの女性の誤解を解きたいけれど、きっと無理だろう。
女性が馬超を討たない限り。しかしそうはさせない。
これはある種の片思いなのかもしれない。




98馬超と馬岱と甘寧と凌統は「舌」と「滑」と「乱」を全部使って文章を作りましょう。
※カフェパロ
“凌ちゃん!ごめん急いでお店に来て頂戴!甘ちゃんも呼んでくれると嬉しいな!あ、じゃあ電話切るね!”
馬岱から珍しく電話がかかってきたと思ったら、一方的に舌をまくし立てられてブツリと電話は切れた。
馬岱があんな風に焦っているのは珍しい。つられて凌統も甘寧に連絡をして合流、カフェのドアを蹴破らんばかりにあけてみれば。

「何だこりゃ・・・?」

隣の甘寧が声をあげた。
見渡す限り、ケーキ、ケーキ、ケーキ。カウンターはおろか、どのテーブルにもホールケーキが山と積まれているのだ。
女性が見れば目を輝かせる光景なのだろうが、甘い物は少しでいい男2人にとって、どこか乱雑とした風景に見えなくもない。
今日は休みだと聞いていたけれど、特別な発注でもあったのだろうか。
そんなケーキの山に埋もれるようにカウンター席に座っている馬超がいて、思わず声をかけた。

「ちょっと孟起さん、これどういうことよ。馬岱に言われてきたんだけど。」
「・・・おい、岱。来たぞ。」

すると、店の奥から馬岱がひょっこりと顔を出して、二人を見るなりああ助かったと声を上げた。

「ちょっとクリスマスケーキの発注が多すぎてさあ、お願いだよお、箱詰め手伝って!」
「趙雲さんは?」
「これだけのケーキを1日で作ったんだ、流石に今は疲れて奥でバタンキュー。ねっ、後で色々ご馳走するからさ。」
「岱よ、俺は何をすればいい。」
「若はロウソクの数を数えてて!凌ちゃんは箱作って、甘ちゃんは箱にシール貼って!」

といいながら、馬岱は各々の手に滑らせるように材料を手渡していった。
そして自分はカウンターで腕まくり。身をかがめてチョコに文字を書き始めた。

「あんたは何すんの?」
「俺?俺はね〜、デコチョコ作り!ほら、頼んだよ!今日中に終わらせなくちゃいけないんだから!」

甘寧と凌統は顔を見合わせ、こうなっては仕方がないと同時に溜息をつきそれぞれ散らばった。
凌統はカウンター脇の小さなテーブルに陣取って早速箱を作りだす。
そっと目を馬岱のほうへ向けると、チョコレートのカードに文字を入れている馬岱の表情が優しくて、思わず笑みをこぼしてしまった。

(またあのカプチーノが飲みたいな・・・。)

そのためにはこの作業を終わらせなくては。
凌統は慣れない手つきで箱を作りだした。




99凌統と陳勤は「色」と「喜」と「湿」を全部使って文章を作りましょう。
暗がりだから、迸るその色が何色であるのかわからない。
けれど、顔にびちゃりと貼り付いてぬめるように頬を伝うそれは、己の体温と同じで生温かく、はっと凌統は我に返った。
父を悪く言った者を斬った喜びは一瞬だけで、陳勤の断末魔と押しつぶされそうな罪悪感だけが凌統に残った。
騒ぎを聞きつけた兵達が陳勤を担いでどこかへ行ってしまったが、凌統はその場に膝を折り、頭を抱えた。

(どうする・・・。あんな野郎だって俺の上司で・・・でも父上のことをあんな風に言うなんて許せないし・・・)

あの男の罵声を思い出すだけでも耐えがたく、今ですら吐き気や涙がこみ上げてくる。死んでいい奴だと思う。無意識に唇を噛んだ。
けれど、それでも。
陳勤の背の向こうに孫権が、周瑜が、呂蒙が見えた。
己の行動は、国に刃を向けたようなものなのだ。

(斬ったあの感触・・・。手ごたえはあった・・・。)

辺りに残る鮮血の量は夥しく、陳勤はきっと生きて孫呉には・・・
凌統は深く息をついた。

(こうなったら・・・)

死んで詫びないとね。
凌統は再び立ちあがり、一歩一歩を踏みしめながら幕舎に戻った。




100甘凌は「陰」と「冷」と「怖」を全部使って文章を作りましょう
その知らせを聞いた時、甘寧は初めて恐怖に似たような感情を抱いた。

合肥から撤退し、船に乗ってすぐに孫権の安否を確認する。
孫権特有の辺りが澄み渡るような声が僅かに聞こえ、そちらを見るとしっかりと両足で立っている君主の姿を見て大いに安堵した。その近くには呂蒙もいる。周泰もいる、けれど。

「おい!凌統はどこだ!」

どこにもいない。凌統だけではない、凌統の隊がまるごといないのだ。
まるで奴の全てが世界から消えたようだと考えて、即座にそんなことは無ぇと頭を強く左右に振った。
小さく鳴った鈴にこめかみから流れ落ちた汗が冷たく落ちた。
その時、兵の地を吐くような声が辺りに木霊した。

“凌将軍を発見しました!、凌将軍を発見しました!”

その声を最後まで聞くことなく、甘寧は走っていた。
兵達が慌ただしく駆け抜ける中を掻きわけるようにして辿りついた船の縁には、ぼろぼろの凌統を抱いた孫権がいた。
他に助けられた者はいない。
孫権越しに見た凌統は泣いていた。自分意外は誰も戻らなかったと。

「違ぇ!」

突然声を荒げた甘寧に、孫権も凌統も一同の視線が集まる。
やや自分でも驚いたのは、いつにも増して本心が考えるより先に口をついて出たからだ。
甘寧は孫権のやや後ろまで歩み寄り(本当は孫権をどけたい所だったが、君主を蔑ろにはできない。一応理性は保っていた。)、凌統に言い放った。

「てめぇが守った殿は生きてるし、お前だって生きてるだろうが!」
「・・・そうだ、凌統。私はお前が生きて帰ってきてくれただけで十分だ。」

そう言って再び落涙した孫権の陰で、甘寧は一人溜息をついた。

(俺だっているだろうがよ・・・。よかったな、また仇打ちできるぜ?)
(まいったな。まさか俺までアイツがいねぇと駄目になっちまったってのかよ。)




101甘凌は「飲」と「変」と「先」を全部使って文章を作りましょう。
※凌統が文盲設定
凌統が口を利かなくなって、早5日が経とうとしている。
力任せに問いただしても凌統はこちらを睨み付けてくるだけで、やがてそのままどこかに行ってしまうのだ。
あそこまで凌統を怒らせたのは、初めてに等しいかもしれない。いつもなら、口を利かなくなってもほんの数刻で、半ば怒るこてとを諦めたように、溜め息混じりに言葉を吐き出すのだ。
でも、今回は違う。ずっとずっと怒っている。

(俺、なんかしたかぁ・・・?)

流石に自分の行動を少し顧みた甘寧だったが、ちっとも見当がつかず顎を一撫で。何も言い合ってはいないし、身体を潰しかけるような抱き方だってしちゃいない。さて、何だ?

ふと、思い浮かんだのは、遠征中の凌統に宛てて書いた書簡のこと。しかし内容は別段変なことは書いていないはずである。
今度俺の邸に来いとだけ書いて、帰ってきてから奴が一人で見るように、外から寝室の窓の中へと放り投げただけだ。

(・・・あれが肝か?)

甘寧は早速凌統を探した。



「おう、凌統。どういうつもりだ。」
「・・・。」
いつまでもだんまりだとこっちが面倒なんだよ。」

鍛練中の凌統を見つけて、そのまま引きずるように人気のない場所にやってきた甘寧は、凌統を壁に縫い止めた。
それでも凌統はばつが悪そうにそっぽ向いて見せるだけ。
揺れる束髪が苛々する。
甘寧は乱暴に凌統の髪を引っ張り、その場に押し倒した。したたかに背中を石床に打ち付けた凌統は、喉の奥からぐ、と低い呻きを漏らして眉間に深い皺を作った。
やっと聞くこと叶った僅かな声をもっと聞きたくて、甘寧は凌統の服を裂き、無理に事を進めようとする。
しかし今度は、言葉を吐くではなく息を飲んだから、甘寧は一気に醒めて身を引いた。そして、空を仰いでため息。

「なあ、おい。何でそんなに固くななんだ。」
「・・・。」
「言わなきゃわかんねぇのによ。」
「・・・めないんだ。」

それは酷く小さくて、記憶の中の凌統の声より掠れていたような気がする。

「・・・・・・・・・あ?」
「・・・・・・・・・俺、字が読めない。」
「・・・。」

すると、凌統は堰を切ったように先の言葉を話し出した。

「自分の名前は読めるし書ける・・・・・・・・・でも、長い文はさ・・・。だからいつも書簡が来たら、副将に読み上げてもらってる。今度もそうしてもらったら…。副将は笑ってるし、なんか・・・・・・・・・・・・ああ、だから、あんた悪くないんだ。」

甘寧はぽかんと凌統を見ながら、胸がすっと晴れていくような気になった。

「・・・書簡を読めなかったってことか?」

静かに問うと、凌統は顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。
そして、゛だから呂蒙殿は尊敬するし、゛等と話しを懸命にそらそうとしているが、別に文字が読めないことは変じゃない。それより、こいつは自分の書を理解しようとしてくれた。甘寧は再び凌統を抱き寄せる。

「そんなの簡単じゃねぇか。俺がテメェに読み書き教えればいいんだ。」
「あんたが・・・?へっ、何教えられるか分かったもんじゃないね。」
「そうやってヘコんでいられるよりマシだ。」
「・・・。」




102権凌は「生」と「大」と「徳」を全部使って文章を作りましょう。
「ちょっ、と。殿・・・戯れもいいとこじゃないですかねえ。」
凌統は溜息をつきながら覆いかぶさってきた主君を見上げた。
酒臭い孫権は、遠慮なしに凌統の衣のあわせを大きく開き、胸元に唇を這わせる。そしてその手は凌統の下半身へと素直に伸びて、衣の隙間から凌統自身に直接触れた。
男の自分のそれを舐めるより、お付きの練師のほうがたわわに実っているというのに、どうしてこんな風に。
まるで生きていることを確かめるようだ。
昔を思い出した。
まだ孫策がいた頃はこの人は人徳ある弟君と言われていた。そういう周りの声は勿論凌統自身もそう思っていたのだけれど、孫策が死に、兄君に変わって君主となったこの碧い瞳の男は、少しだけ甘えたになったような気がする。
(器が大きくなった分、不安になっちまったかな・・・。)
置いて行かれるのが怖くて、そして自分のせいで命を落とす者がいることを知って・・・。
もともと優しい人だ。
「・・・殿。」
「なんだ、凌統。」
「殿は、昔から変わってませんよ。」
「・・・そうか。」

孫権が凌統の髪に指を差し入れ、唇を奪う。
凌統は、心が震えるのを感じながら君主の肩に腕を回した。




103策凌は「男」と「触」と「乳」を全部使って文章を作りましょう。
長雨の日だった。
「凌統!ちょっと匿え!!」
そう言いながら、邸にやってきた男は主君の孫策である。
顔の前で両手を合わせて、凌統が何か言う前にさっさと邸の中に入り込んできた小覇王はずぶ濡れで、邸の中に濡れた跡ができていた。
「孫策様!!一体どうしたっていうんです!?」
「宮をこっそり抜け出して虎狩りに行こうと思ったらよ、周瑜に見つかっちまったんだ。しばらく置いてくれ。」
成程、そういうわけか。
凌統は額に手をやって、呆れたと言わんばかりに小さく頭を降った。
「なあ、それよか凌統、」
突然低く呟いた孫策は、足早に凌統に近づき、妙に優しい仕草で乳白色の頬に触れた。
「・・・お前、最近声変わったか?」
「あ、分かります?そうなんですよ。身長も伸びてきたし、父上に褒められました。」
「そっか。」
「でも声は、姫に“全然分からない”って言われて・・・んぅ。」
突然唇を塞がれ、乱暴に手首を掴まれ引きずられるようにして歩いた。
孫策はもう何も言わない。
こうなると、行く先は閨しかない・・・。
孫策は自分を抱く時無口になるのだ。
(・・・周瑜さん、早く見つけてくれるといいな。)
自分が壊れないうちに。
長雨が邸をしたたかにうちつける音の隙間を縫うように、凌統は溜息をついた。




104馬岱と斥候は「射」と「襲」と「精」を全部使って文章を作りましょう。
「ほら、こうするんだよ。」
とある兵卒に見込みがあるといい、馬岱は己の幕舎にその兵卒を呼びだした。
妖筆は誰もが操れるものではない。気と武と画力が必要なちょっと難易度の高い武器なのだ。
だがその兵卒は飲み込みがよく、すぐに気を操ることができて、画力もあった。ただ少しだけ、武力が少ないのが難点だったけれど。
また、その兵卒はよく問いかけてきて、馬岱と波調があうものだから、馬岱もさらりと答える。
「馬岱将軍、その画鬼には精が宿るのですか?」
「いや。気を練るだけだから違うね。絵も正確に書かなくちゃいけないしねぇ。中々難しいのよ。」
「そうでしょうなぁ・・・。」
馬岱の筆を眺めながら、兵卒が自分の顎に手をやった。
「それは例えば、刀や槍を描いたらどうなるのでしょうか。」
「そうだねぇ、他の人に与えることはできないけど・・・こんな使い方もできるんだよ。」
馬岱は一瞬のうちに無数の弓矢を周辺に描き、筆を大きく横に払った。
すると、弓矢は一斉に兵卒の体を襲い・・・
「君が斥候だってこと、気付いてたよ。俺の技に近づくなんてねぇ。あ、ちなみにこれ、結構使えないんだよね。」
気が抜けた墨の矢は、絶命した男を射抜いたまま墨へと戻った。男の死体は墨塗れ。これでは、自分が殺ったと言っているようなものだ。
さて、どうやって処理をしようか。
馬岱ははあと溜息をつきながら己の妖筆を見た。




105凌統と凌操は「色」と「獣」と「圧」を全部使って文章を作りましょう。
もしもし父上?はい、俺です。
父上は今どこに?ああ、出張先ですか。いっつもお疲れ様です。
あはは、そうですね。あ〜、俺は家です。
あ、そうだ。今日大掃除したんですけど、父上のクローゼットって開けてもいいですか?
うん・・・はい。そこだけまだなんです。・・・・・・・・・・・・ああいや、手狭になったわけじゃなくて。ええと、ほら、父上の私物を俺が勝手に何かするわけにも・・・ああ、今更だけど、でもそこはちゃんとしておかないと。
・・・・・・わかりました。ちょっと見ておきます。
父上は明日帰ってくるんですか?
・・・あ!本当に!?じゃあ年越しそば、作って待ってますよ!・・・いやいや、それくらいは作れますって。味も期待してくれていいですよ。勿論お雑煮も作りますからね。・・・・・・・・・あはは、流石におせちは買いますって。
あ・・・父上・・・・・・・・・・・・それから、ご相談っていうか・・・その、明日明後日って、友達が家にいてもいいですかね?実家に帰らずにウチに来るって利かなくて。
・・・・・・はい、はい。大みそかお正月って、ウチにくるって。
はい。言って聞かせたら、友達の実家のほうは問題ないっていってるみたいです。
・・・・・・・・・わかりました。父上も明日気をつけて来てください。お土産待ってますよ。じゃ、はい。おやすみなさい。

凌統は携帯から耳を離すと、後ろから感じる威圧に溜息を漏らした。
眉を寄せながら振り返ると、甘寧が醤油と計量スプーンを片手にこちらを睨んでいるところであった。

「おい、早くしろ、煮汁ってどうやって作るんだ。」
「ああ、はいはい。スプーンとかいらねぇから。あんたは野菜切ってな。」

キッチンに入って甘寧の隣に立った凌統は、鰹節を鍋に大量に入れた。
そして、横目で甘寧の姿を見る。
奴は小気味よい音を立てながら、雑煮に入れる色鮮やかな野菜類を切っている。
閨ではあんなに獣のような荒々しさを見せるのに、こういうときばかりは細やかなのがどこか憎らしい。

(・・・。)

父上にこいつを逢わせる日が来ようとは。
・・・この世で大好きな2人に囲まれて年を越せるなど、どれだけ果報者なのだろう。
そんならしくないことを考えながら、凌統は小さく笑った。




106 甘凌は「破」と「持」と「晩」を全部使って文章を作りましょう。
その晩、凌統と酒を飲んでいたらどうしてか、身体の柔らかの話になった。
確か、戦の時の体の動きについてを話していたのだけれど、凌統が“あんたの体は硬い”というので足を伸ばして前屈してみた。
一応つま先を持つことはできるし、普通程度だと思うのだが、凌統は破顔してけらけらと笑う。
「あっはは、やっぱり思った通りだ。あんた結構身体硬いんだねぇ。」
「あぁん?じゃあそういうお前はどうなんだよ。やってみろ。」
「言ったな?驚くなよ?」
といって凌統は持っていた杯を置き、足を綺麗に横一文字に開いて見せた。そしてそのままぺたりと地面に身体をつける。
まあ、大体予想はできた。戦中にあれだけ身体全体を使っていれば。
そこから片足を持ち上げて、太腿を己の体に寄せつけるようにして持って見せる。
「ま、これくらいは序の口ってとこかな。」
「へぇ。じゃ、てめぇの体の柔らかさ、閨でもっと味わうとすっかな。」
そこで凌統は初めてやめろと言い始めたが、あんなに足を開いた姿を見せつけられては止められるはずがない。
甘寧は柔らかな凌統の耳たぶに唇をよせた。




107策凌は「唇」と「顔」と「部」を全部使って文章を作りましょう。
「あの、孫策様・・・」
「しっ・・・声出すな。見つかっちまうだろ。」
息遣いも鼓動も分かってしまう程、君主とぴったりと身体を寄せ合っている。
ここは大広間の天幕と壁の間。
少しでも大きな声をあげれば誰かに見つかってしまうというのに、孫策の手は今まさに凌統の下半身を慰めていた。
「・・・・・・っ・・・ぅ・・・」
君主とその部下なのに、こんなことまでし合う仲に、いつの間になってしまったのか。
凌統は声を押し殺しながら、薄く目を開いて唇を吸う孫策の顔を見た。
精捍な顔立ちだ。
父上も、こんな風に育ってほしかっただろうな。
今では、もう・・・。
(こんな慰み者になっちまって・・・ごめんなさい、父上。)
心の中の懺悔は、最早言葉にすらできなかった。




108番外編 甘凌18禁

※汚物的な意味での18禁です※

二人でそういう営みをするホテルに来ることは、時々ある。
別に家にいれば事足りるのだけれど、例えば凌統が仕事上がりの直後に会った時などに、どういうわけか居ても立ってもいられないくらい血が騒いだら、転がり込むのだ。
そして、まず凌統が行うのは風呂に入ること。
別に身体を少しでも綺麗に・・・なんて初々しい気持から行うのではなくて・・・

「じゃ、ちょっと腸(はら)洗ってくるわ。」
「おう。」

もし、ヤってる最中にもよおしてきたらヤバいだろ?
それに仮に出ちまえよ、ホテルの清掃員さんに申し訳ないし、そんな醜いこと甘寧にもみせられない。
それから・・・何となく、奴が中にアレを出すなら、いっそそれだけが溜まってるほうがいいかな、なんて。

「う、」

凌統は大きな風呂場のシャワーノズルの横に置いてある、丸く整えてあるチューブに手を伸ばした。
シャワーノズルをはずして、チューブの先端についているキットをシャワーに取り付け、反対の先端・・・ゴム製の細長い口を己の菊座にあてがい、ゆっくりと挿入してゆく。
最初はこれすら痛かったのに、今となって全く苦痛ではなくなっているのが何とも腹が立つような、寂しいような。

そして、シャワーのコックをひねれば、生ぬるい湯が腹に溜まってゆく。そのままシャワーを止めてチューブをひっこ抜き、慌ててトイレへ駆け込めば、ほらもう腹の中は空っぽだ。
これで、奴を受け止める準備ができた・・・なんて、そんな女みたいで馬鹿みたいなことは絶対言わないけどな。

「さ、準備できた。」

凌統は、既に服を脱いで煙草を吸っていた甘寧のほうに歩み寄っていった。

(実際はちょっと違う器具を使います。綺麗に書いちゃった。)




109超凌は「慰」と「涙」と「犯」を全部使って文章を作りましょう。

※オロチ設定

曹操がとうとう仲間になり、味方とともに帰ってきたと聞いて、凌統は何となく馬超の姿を探した。
曹操は馬超の親の仇だ。仇と陣を共にする苦痛は誰よりも知っている。果たして馬超は大丈夫なのか。
いた。
帰陣の列のずうっと後ろ、一番最後に錦馬超は雄々しい騎乗姿でこちらに向かってくる。しかしその表情といったらなんだ。凌統の心配は当たっていた。見事なしかめっ面だ。
凌統は目の前を通り過ぎる馬超を追いかけ、陣営の中で馬から降りた背中につい声をかけた。

「おい、あんた大丈夫か?」

僅かに馬超は振り向き、凌統と目を合わせた。でも、拒否するようにすぐに馬のほうへと向き直る。

「何のことだ。」
「お節介かもしれないけどさ。あんた、曹操が親の仇なんだよな。」
「・・・。」
「だから、ちょっと心配になってさ。」

すると、馬超が勢いよく凌統のほうへと振り向いた。そして凌統の心を睨みつけるようにじっと見つめてくる。意思の強そうな唇は真一文字に結び、“そのような心配は要らぬ”とすぐにでも紡ぐような気を放っている。
そして馬超は一歩凌統に歩み寄り、大きく息を吸った。

「凌統殿、心配をかけてしまったようだが、大丈夫だ。無論慰めもいらぬ。味方を手にかけ過ちを犯すなど、俺はせん。このような世界だ、最早何が起ころうとも涙は流すまい。」
「・・・そうかい。」
「しかし凌統殿。お前の事は知っている。俺は今まで曹操と敵対して、己の憎悪を正しいものと思い駆け抜けてきた。・・・しかしお前は一度も仇と敵対することなく、味方として憎しみと向き合っていたと聞いた。だから、敢えて言おう。」
「・・・。」
「・・・俺の今のこの、屈辱にも似た思い。はけ口をどこにすればいいのかわからぬ。」

余りにもまくし立てるから、凌統は馬超が一体何が言いたいのかさっぱりわからなかった。
が、段々こちらにすがっているようにも見えて来て、つい微笑んでしまった。

「・・・あんた、意外と話すんだな。」
「?何のことだ。」
「いや、こっちの話。そうだねえ。ま、もっと単純にいきましょうや。今は味方だけど、これから先、また敵になるかもしれないってだけだよ。」
「・・・ああ。」
「だから馬超殿、今日ぐらいはぱーっといきませんかね。ほら、一緒に飲みに行きましょうぜ。」




110凌統は「肌」と「晩」と「生」を全部使って文章を作りましょう。

※cali≠gariの【ママが僕を捨ててパパが僕をおかした日】という曲がモチーフです。

嵐の後の、うらやましくなる程の青空が好きだ。
激しければ激しいほど、それは爽やかでどうして汚れないのか憎らしくもある。
「・・・ぁ・・・。」
最近の凌統は忙しい。
誘い誘われ、毎晩夜通し見知らぬ相手とも肌を重ねて、いったい何人を相手にしたのか分からない。しかも全て男だ。
今日も連続で何人も相手をした。
その中には初めて見る顔をあれば、ほぼ毎日顔を見せる奴もいる。
気が付いたら空に太陽が昇っていて、上下左右を取り囲んでいた男たちは、皆消えてしまっていた。
凌統だけが、一糸まとわぬ姿で室の床にごろりと転がっていた。
「・・・。」
空虚のまま視線をあげた先には、一点の曇りもない蒼天。
(ああ・・・。)
全てが青空になればいいのに。
俺が生きて、俺が死んでも。
それでもこの青空は変わらなければいいね。
凌統は、ただそれだけを願って、薄く笑った。




111馬岱と諸葛亮は「背」と「香」と「笑」を全部使って文章を作りましょう。
二人きりになるといつもそうだ。屋内でも屋外でも、目に見えない箱に覆われて、二人だけ隔離された気分になる。
きっと、あの人も気付いているだろう。だから笑みを絶やさない。
悪だくみ・・・と言えば大げさかもしれない。
確かに、それ相当の「話し合い」もしているが、普通の話だってするのだ。

今日だって、いい肉を買ったはいいが一人で食べるには量が多すぎて、届けにきただけなのだ。
表もあれば裏もある。
けれど、あの人との距離は少しも乱してはいけない。どちらかが動いたならば、裏の世界に引き込まれて戻れなくなる。
「あれ?」
ふと、懐かしい香りがして馬岱は辺りを見回した。
卓の向こうに居る諸葛亮が、羽扇で口元を隠しながら目を細めた。
どうやら笑ったようだ。
「先ほど、いい香を購入しました。店主が言うには、西涼の鉱物を調合して作った香りとか。いかがですか?」
それは、媚薬。
馬岱は灰色の瞳を見開いて言葉を失った。
「・・・反則だよお。諸葛亮殿。」

・・・もう、戻れないのかもしれない。




112陸遜と呂蒙は「白」と「変」と「話」を全部使って文章を作りましょう。
ああ、と呂蒙が辛そうに己のこめかみを抑えたのを、陸遜は苦々しく見つめた。
呂蒙の頭痛の種は、目の前の書簡である。
甘寧と凌統の二人に、喧嘩で壊した修繕の取りまとめを任せたはいいけれど、その報告がまるで酷い。

”柱2本を直しました。以上 凌公績”

甘寧に至っては何の報告もなしである。

「”以上”ではないぞ、凌統・・・。」
「これは・・・酷いですね・・・。」
「仕方がない、もう一度書き直させるか。甘寧も捕まえて、書かせねばなるまい。」

陸遜は頭を抱えて深いため息をついた呂蒙を心配しつつ見つめる。
最近呂蒙の髭に僅かに白いものが混じってきたのを見つけてしまったが、呂蒙の年齢から考えれば完全に若白髪。陸遜は心の中に留めておくことにした。
そもそも、あの二人がちゃんと仕事をすれば何の問題もないのだ。
しかも丁度いい所に、仲よく追いかけっこをしている二人が、遠くの練兵所のあたりを横切って行くのが見えた。

「呂蒙殿、私にお任せください。お二人をここに連れてきてご覧に入れましょう。その後も私が指導しますので、ご安心を。」
「そうか?悪いな陸遜。俺は今手が離せない、頼んだぞ。」
「ええ。では。」

すっくと席を立った陸遜は呂蒙に軽く一礼して、外へ出た。
その両手には双剣ではなく弓矢を持っていたことと、陸遜が変に爽やかであったことに、呂蒙はとうとう気づかずにその姿を見送ったのである。




113陸遜と凌統は「入」と「思」と「根」を全部使って文章を作りましょう。
陸遜は思わず瞠目してしまった。

ある夜突然、凌統が真剣な表情で邸を訪ねてきて「碁を教えてくれ」と頭を下げてきたのだ。即座にその理由を悟ったが、何も詮索せずに、ではお手並み拝見と一勝負してみると簡単に圧勝してしまい、指南を了承したのがつい1ヵ月前のこと。

凌統の指し方は成程、爪が甘いというか、つい相手に逃げ道を作ってしまって、そこに入り込まれてしまう事が多い。
「凌統殿はお優しいのですね。ですが、優しさは時には無用ですよ。」
と言ってやれば、無自覚だったのか首をかしげて見せたのが半月ほど前。

それが、今。
五分五分のいい勝負をしているではないか。
陸遜は何か助言をしたわけではない。
凌統は陸遜の手を真似しているわけでもなく、何か根を詰めて策を考えてきたようにも見えない。ただただじっと碁盤の上を眺めて思考を凝らし、ぱちりと指す。それだけだった。

「凄いですね、凌統殿。ここまで上達されるとは。」
「・・・ま、すぐに終わりにしたくないんでね。それに負けっぱなしはかっこ悪いしな。」
「わかりました、では私も全力で参りましょう。」
「それから・・・何となく、わかったって感じかな。」

言われて気づいた。
爪の甘さが消えている。
きっと凌統殿のことだ、考えて考えて、でもこれといった原因を見つけられなくて、結局感覚で掴んだのだろう。なんと武官らしい。それにこれは血を流さない勝負。だったら戦よりもずっと容赦なく攻めても構わないものですからね。
・・・これならば、きっと甘寧殿に勝てるだろうな。
陸遜は、次の一手を考えている凌統を見ながらにっこりと笑った。




114 甘寧と呂蒙は「打」と「微」と「無」を全部指して使って文章を作りましょう。
呂蒙は久しぶりに碁を指している。
というのも、甘寧がちょっと碁に付き合ってくれなどと言ってきたものだから、書簡の整理も疲れてきたことだしと快く承諾したのがきっかけ。
しかし久しぶりと言っても、最後に碁を指したのは確か周瑜の相手をした5年も前のことで、あの時はさんざんな目にあったのを覚えている。

「ううむ・・・。」

そして呂蒙は目の前の碁盤を見てつい唸ってしまった。
碁の決まりを思い出しながら指している呂蒙の一手を、甘寧は容赦なく潰していく。
困った、とうとう背水となってしまった。無精髭でざらざらした己の頬を一撫で、さて、他に効果的な策はないものか。
しかし、向かいに座るこの男がここまでやるとは思ってもいなかった。
というか、まず甘寧が碁を嗜む男だとは思ってもいなかった。

「甘寧。お前がこんなに碁が出来るとは思わなかったぞ。」
「・・・そりゃあ、凌統の野郎に付き合ってるからな。」
「ほう、それは初耳だ。お前たちはそんな事をしているのか。」
「まあな。しっかしおっさんよぉ、凌統より弱ぇってどういうことだよ。」
「ううむ。どうも盤上の戦は苦手でな。」
「んじゃあ陸遜あたりに習ったらどうだ。」
「それもいいな。・・・・・・む、もしや、打つ手無し、か?」

気にかけている後輩同士がそのように交流を深めているとはまた嬉しいが、その前に自分の心配をしなくては。
盤上の碁石を睨みながら、呂蒙はこみ上げてきた悔しさを押し殺すように僅かに舌打ちをした。




115番外編:馬岱

馬超は、蜀に降ってからも自ら他の武将と親交を深めようとしなかった。
休日は、出かけるといっても一人馬を走らせているだけで、他の武将の所へなど足を運ぶ気配すらしない。
時々趙雲が気を利かせて、酒を持って邸に足を運んでくれるが、その時も馬超は口元をやや綻ばせる程度。趙雲もさほど口が達者なほうでもないので、いつの間にか無言の酒宴になっていることしばしば、己が間を取り持つこともある。
けれど、馬超のほうはどうだかわからないが、趙雲のほうはそんな無言を愉悦に感じているようで、それだけでも有難かった。

本日は早い時間から張飛が邸にやってきて、馬超と槍を交えていた。
張飛は既に酒に酔っていたが、それでも武は冴えており、相手をしていた馬超も珍しくとても喜んでいた。

(若は張飛殿がお気に入りっぽいよねぇ。うんうん、いい感じじゃない?若もああしてみんなが来てくれるんだから、少しくらい応えてほしいもんだよ。)

その後、馬岱も馬超と手合わせをしていたら、張飛が邸の酒を全て飲んで暴れそうになり、やや深夜に差し掛かった時間ではあったが、馬岱は慌てて酒屋に行って酒を調達しに町に出てきたのだ。
急いで分けてもらったのは羊の乳を発酵させて作ったもの。西涼の酒の作りと似ているというそれを味見した所、本当に懐かしい味がして、きっと若も気に入るし張飛にも飲ませてみたいと思って、馬岱はそれを選び、豚の腸いっぱいに詰め込んでもらい、妖筆にそれを引っかけて足早に邸に戻っている最中である。

ふと、声が聞こえた。
密やかな声の中に馬超の音が混じったのが耳に届いて、即座に馬岱は足を止めて息を殺した。
そっと欹てた耳に入ってきたのは、知っている兵の声である。知っているといっても、元々馬岱が斥候ではないかと目をつけていた兵であったのだが。
ただし、確信はなく泳がせている状態で、諸葛亮に報告するだけに至っている。

(やっぱり、こいつは当たりだねぇ。)
「で・・・、次の出陣の時が来たら密書をこの鳥の足に結んで飛ばせ。そしてすぐに逃げろ。俺もこれから陣営を出て、報告しにいく。」
(おやぁ、二人だったのか・・・)
「分かった。しかしあの馬超がまさか蜀と手を結ぶとはな。」
「だが、西涼を失った奴は生きながら死んでいる。怨霊のようなものだ。」
「きっと自分の武に喰われるな。」
「その前に、俺達が殺るかもしれないぜ?」
「だな。」
「ちょっとちょっと!あんたら、こんな所で内緒話?俺も混ぜてよぉ。」

二人の斥候は、酷く恐れ慄き、声すら出せずにその場に固まっている。
それは、二人の前に突然現れたのが馬岱であったのと、馬岱の瞳がいつもの灰色ではなく血のように真っ赤に染まっていたからだ。
赤い瞳は夜の闇にゆらゆらと揺らめき、鬼火が二つ灯っているよう。
斥候のうちの一人が、ひ、と小さく喉を震わせた。

「俺、あんたらが斥候だって前から気付いてたわけよぉ。で?君らどこから来たの?」
「・・・い、言うものか!!」
「ん?その鳥・・・魏に居る鳥だよねぇ?・・・へえ・・・魏、か。」

馬岱が言葉をぽとりと落としたと同時に、辺りの空気がざわついた。
冷たい、冷たい。
馬岱は瞬時に妖筆を横薙ぎに一振り、男の持っていた鳥を真っ二つに切り裂いた。そして、男の胸元に妖筆を突き立てる。
男が悲鳴を上げないように、もう片方の手で顎を砕かんばかりの力でもって口をふさぎながら。

「うちの若が魏に恨みを持ってることが分かってるなら、俺にばれた時点で命はないことも当然分かってるよな。生きて返さないから覚悟しろよ?」

ずっと昔からそうだ。
馬超の悪口が聞こえると、瞳が真っ赤になって自らの箍が外れ、頭の中が真っ白になるのだ。
我に返ると、辺りには悪口を言った相手がボロボロな姿で転がっていたり、馬超が拳で己を止めていたりもした。
けれど、ここには馬超はいない。
いつも戦場で使役する風の虎ではなく、小さな鬼を数匹闇に描いた。
浮かび上がった子鬼は、腹が異常に膨れた餓鬼であり、甲高く気味の悪い声をあげながら斥候たちに群がり一瞬のうちに貪り食いつくしてしまった。

「・・・。」

すぐに辺りに再び静寂が訪れた。
餓鬼は消えていなくなり、斥候たちの姿も綺麗に無くなった。
馬岱の瞳も既にいつもの灰色のそれとなって、陣営に帰ろうと踵を返した。




116凌統と甲斐姫は「気」と「性」と「悪」を全部使って文章を作りましょう。

※オロチ2設定です。

「おらあぁぁぁっ!」
討伐軍に加わって早々、凌統は突然響いた怒号につい振り向いた。
振り向いた先にいたのは、久しぶりに見た己の国の弓腰姫・尚香と、そして武装はしているが普通の女の子であった。普通とはいっても着物は少し派手で、気性が荒そうな印象を受ける。
二人は武器を手に、手合わせの真っ最中だ。
(あれ?今なんだか物凄い声がしたから敵かと思ったんだけど・・・この世界に来て耳がいかれちまったかな?)
凌統はやることもないので、そのまま二人の様子をぼんやりと眺めていた。
尚香の武技は全く衰えていない。そして相手の女の子もまた十分に腕に覚えがあるらしく、得物の浪切を縦横無尽に振っているけれど、しっかりその軌道や刃の角度を頭に入れて扱っている。女性の華麗さや儚さなどは微塵も感じない、むしろ力強さを感じる。

(へえ、うちの姫といい勝負してるなんてやるもんだね。見た目も割といいしな。しかしまあ元気だねえ。どっか怪我しないといいけど。)
「尚香、悪いけど今回はあたしが勝ちを貰うわ!」
「何?攻撃ばっかりが武芸だと思わないでよね!まだ勝負は決まってないんだから!」
「そうね、でも手は抜かない!おらああぁぁ!!」
「・・・。」

凌統は耳を疑いそして目を見張った。
あれ。
今、あれ?
あの子がおらあぁって言った?
もしやこの陣営で真しやかに囁かれていた“熊姫伝説”は、もしかして、あの子・・・?

(・・・。怖い怖い。当たり障りのない付き合いをしていくとしますか。)

凌統は何も見なかったことにして、そそくさとその場を後にした。




117甲斐姫と尚香は「顔」と「中」と「高」を全部使って文章を作りましょう。
※オロチ2設定です。

幕舎にある飯店で、甲斐姫は尚香と昼食を食べていた。

「あ〜!!尚香!!ホンットさあ、いい男知らない?もうあんたの国の人でもいいわ、ねえ、誰か紹介してよ!!」

尚香は隣の甲斐姫の剣幕に若干引きながら、手元の肉まんをちぎって口に運ぶ。

「でも私たち、住む世界が違うじゃない。元の世界に戻ったら離れ離れになっちゃうわよ?」
「それでもいいわ。一時の夢でもきっといい思い出になるもの。あ、そうだ。ホラあのあんたのとこの、あの人は?背が高くて、なんかチャラチャラしてて、右目の下に泣き黒子のある!」
「凌統?」
「そうそう!凌統さん!顔もいいし、この間一緒に出陣したんだけどさあ、素手でばったばったと敵を倒ていくんだもの!かっこよかったわあ!」

そこで尚香は首を傾げながらうーんと唸った。
確かに、凌統はよく女の子に声をかけられているし、本人も女性を労わって接している。きっと甲斐姫にもそうするだろう。悪くはない。
けれど、何故か甲斐姫と並んでいるよりも、甘寧と喧嘩をしている姿のほうがしっくりくるのはどうしてだろうか。
それは、見慣れているからではなくて・・・

「う〜ん、甲斐、凌統はやめたほうがいんじゃないかなあ。」
「どうしてよ!もしかしてもう誰か意中の人がいるってわけ!?」
「そういうわけじゃないと思うけど・・・とにかく何か違うの。」
「あっそう・・・もう何でもいいわ。あ〜・・・。あぁ〜〜っ!!何であたしって運がないのおおお!」

喋らなければいいのにと、甲斐姫の咆哮を聞きながら、尚香はただただ苦笑いを浮かべた。




118甘寧と凌統と甲斐姫は「裸」と「暇」と「惑」を全部使って文章を作りましょう。
※オロチ2設定。

甘寧は凌統と一年分の酒代を賭けて勝負をし、そして勝った。
・・・勝ったはずである。

(なぁんで凌統の野郎のほうが楽しんでやがる。)

悔しがる凌統を引っ張るようにして早速飯屋に来てみると先客がいた。
尚香と、甲斐姫とかいう異世界の女である。
尚香は甘寧と凌統の姿を見るなり助かったと言わんばかりにどこかへ逃げていき、残された甲斐姫がいきなり凌統に“凌統さんは意中の人はいるの”とか目の前で抜かすし、凌統も凌統で己の目の前で“いるわけねぇだろ”などと言って、甲斐姫とがっちり握手して一緒に酒を飲みだして。
完全に甘寧は不機嫌になり、黙ったまま酔っ払い二人の横で飲んでいる。

(ったくよぉ。不味い酒だぜ。)
「ちょっと凌ち〜ん、飲んでる〜?あたしより先に潰れたら漢じゃないわよお〜。」
「おいおい、もう勘弁してくれよ甲斐ち〜ん。」
「・・・誰だよ“こう見えて酒は強いんだ”って言ってた奴はよ。」
「あぁ〜!ちょっと〜。甘寧もちゃんと飲みなさいよね〜。半裸だからってあたしは惑わされないんだからぁ〜。」
「ほらほら〜、甲斐ちんが怒ってるぜぇ〜?この人怒らすと酷い目に合うってのぉ〜。」
「・・・。」

駄目だ、ちっとも酒が進まない。
こんなことならば、暇なほうがよほどましだ。
が、そこへ丁度尚香が氏康を連れて戻ってきた。氏康は思い切り甲斐姫の頭を引っ叩くが、甲斐姫はうふふと笑っているばかり。
「おら、醜体晒してるんじゃねえ。帰るぞド阿呆。」
「御館様〜えへへ〜、あたし友達が出来て嬉しいですぅ〜凌ちーん、じゃあねえー!また一緒に戦に行こうねぇ〜!」
「はいよぉ〜、あんた最高に漢だってのぉ、甲斐ちんまた飲もうぜぇ〜!」
「またねぇ〜!帰り道襲われないようにねぇ〜!」

氏康がもう一度甲斐姫の頭を小突き、そして無言で体を担ぎ上げ去って行った。その横には、心配そうに甲斐を見つめる尚香がとことことついて歩いていく。
さて、そして残されたのはすっかり出来上がった凌統と、自分だ。

「お前、女相手にベロベロになるまで飲んでんじゃねぇよ。」
「ぁあ?何だよ甘寧〜、妬いてんのぉ〜?」

真っ赤な顔でこちらをゆっくりと指差した凌統の瞳は、酒に潤んでいる。
そうか、そうだな。妬いてる。
久しぶりに逢ったのに、隣に居ながら“恋人はいない”と言われて、勝手に楽しんで。
甘寧はふいにその場を立った。
そして、再び杯に口をつけようとしている凌統の腕を強く引っ張り上げ、強制的に立たせる。

「痛っ、おいおい、何だよ〜。久しぶりなんだから飲ませろっての〜。」
「そうだな、久しぶりだからたっぷりとテメエを頂くとするぜ。」

(※私は甲斐姫大好きです。真面目にかっこいい子だと思います。)




119番外編:甲斐姫と凌統
※おろつ設定
討伐軍が陣営を張っている場所のすぐそばには河があったが、溶けた鉄のような真っ赤な水流は、坂東太郎にはまるで似ても似つかず、見ていてもちっとも楽しくない。
また、自分の隣に膝を抱えて座っている男は黙りっぱなしだし、甲斐姫はため息をついた。

「ちょっと、何とか言ったらどうなのよ。」
「・・・。」

仰いだ空も赤く、再び甲斐姫は大きくため息をついた。


誰かと手合わせがしたいと思い、陣営の中を歩いていたら、河辺で大きな背中を丸くして座っている凌統の後ろ姿を見つけて、つい歩み寄ったのだ。
どうしたのと声を掛けると、凌統は黙って甲斐姫のほうを僅かに見て再び膝を抱えなおす。
そこから彼は微動だにしない。
甲斐姫も暇ではないけれど、仲間が落ち込んでいるのだ。どうにかしてやりたい。それに、自分は人一倍そういったものに過敏で、ほうっておけない性分。
だが、こうも相手が何も言わないと流石に苛立ってくる。

相手が凌統だからというのも大きいかもしれない。
甲斐姫が知っている凌統は、へらへらとしていて時々甘寧と怒鳴りあいながら、でも僅かに楽しんでいて、その気がないのに女の子に優しくて。それなのに戦場に出ると、見たこともない素早さと苛烈さで前線を推し進めていくのに・・・。
隣に居るのは見事に落ち込んでいる姿。

(うん、断然今のコレより、あっちのほうがいい。)

甲斐姫はすっくと立った。
そしてそっと凌統の背後に回り。

「いってぇ!!」

思い切り足を振り上げて、遠慮なく背中に気合の入った一発をお見舞いした。
あたりにいい音が響き、近くにいた飯店の店長が肩を竦めたのが目の端に映る。
蹴りを入れられた凌統は前につんのめり、目の前の赤い河に顔から飛び込みそうになり、なんとか腕を突っ張り事なきを得た。
が、すぐに被りを振って甲斐姫のほうを見て声を上げる。

「何だよ!いきなり何すんだっての!」
「煩い!!いつまでもウジウジしてんじゃないわよ、男のくせに!」
「男だってウジウジする時もあんの!ほっといてくれ!」
「何があったか知らないけど、そうやって大きい声出してるほうがあんたらしいって言ってんの!」
「っ・・・。」

一瞬元気になったのもつかの間、凌統は再び瞼を落としてため息をついた。

「ねえ、本当に何があったのよ。」
「・・・。」
「ねえってば。」
「・・・。」
「また蹴るわよ。」
「あんたは女のくせに人の心に土足で踏み込んでくるねぇ。」
「あたしは真剣に聞いてるの。」

すると、凌統はぼんやりと目の前の真っ赤な河を眺めながらつぶやいた。

「・・・・・・あんたの時代の江は・・・こんな感じなのかい?」

かわ?
甲斐姫は凌統の言葉の真意が読み取れず、凌統の顔と赤い川とをしばらく見比べていたが、黙っているよりはましだと思って、慌てて口を開く。

「川?ええっと、まさか、こんな気持ち悪いわけがないじゃない。もっと綺麗な澄んだ蒼い色をしていて・・・そうね、利根の川はもうちょっと広い。」
「・・・。長江はもっともっと広いよ。何つっても対岸が見えないからね。」
「あ!あの赤壁のでしょ!?すっごいわよね。この間尚香と行った!史書では見たけどまさか本物を見れるとは思わなかったわ。」
「・・・・・・・・・やっぱり、あんたも俺の時代を知ってるのか。」
「え?」
「俺のこと、知ってるんだろ?」
「はぁ?」
「俺が早死にすること、知ってるんだろ?」

甲斐姫は凌統を見ながら何度か瞬きをした。
早死に・・・?甲斐姫は、歴史での凌統を思いだそうとぐるぐる考えた。
小さい頃に、御館様に読み聞かせてもらった事がある。海を隔てた国・明の、ずっとずっと前の時代の人物達のことが書いてある史書。
まだ幼かった甲斐姫が覚えていることといえば、孫呉は孫子の末裔ということぐらいで、今まさに甲斐姫の隣にいるのはその孫呉の武将の一人で・・・。
ああ、そうか。
凌統は、多分早く死んじゃうんだ。
そして(どんな形で耳に入れたかは分からないけれど)察したのかな・・・。

甲斐姫は少しだけ胸が痛んだ。
が、それは「今」の話ではない。
甲斐姫はおもむろに凌統の前に回り、腰に手を当ててはっきりとした口調で告げる。

「知らない。」
「は?」
「知らないって言ってんの。」

凌統はぽかんとした顔で甲斐姫を見上げたが、すぐに疑いに顔を歪ませて反撃しようと口を開いたが、甲斐姫が先に言葉を発した。

「史書の“凌統”は、あたしは知らない。あたしは目の前にいる凌統しか知らない!だからほら、いつものあんたに戻りなさいよ!」

そう言って伸ばした手は、凌統にくらべればずっと細いのに、とてもとてもたくましく見えて、とうとう凌統は諦めたように笑い、その手を取って腰を上げた。

「・・・やれやれ、やっぱ熊姫さんには敵わねぇな。」
「ちょっと。今あたし励ましてあげたんだけど!」
「わかったって。手合わせしてやるからそれでチャラにしてくれよ。」
「うーん、なんか足りないわね。あ、肉まんおごってよ。あんたに付き合ってたらお腹すいちゃった。」
「今俺金持ってねえっての。あ、甘寧誘おうぜ。あいつに払わせる。」





120:甘寧と凌統は「無」と「腹」と「微」を全部使って文章を作りましょう。
※おろつ設定

凌統は眠りから覚めた。
少し早く起きたから、邸の中庭で身体を動かし、軽く朝食を食べて腹を満たし宮へ出仕する。
歩きながらぼんやりと空を仰げば、そこにあったのは建業のいつもの青空だったのだけれど、どこか違和感があって小さく首を傾げた。

「よう、凌統。」
「ああ甘寧か。うわ、あんた酒くさいね。昨日は何時まで飲んでたんだよ。」
「あぁ?馬っ鹿、さっきまでに決まってんだろうが。あ、今日よ。お前ん邸に行っていいか?」
「・・・いいけど。」

仇と肩を並べて歩くのは、これに始まった事ではない。
けど、いつの間にこんなに空気が柔らかくなったのだろうか。
そういえば、今日目覚めた時、微かに長い長い夢を見ていたような感覚がした。
何か大切なことを忘れてしまった気がする。
何だろう。思いだせない。

“今を楽しむとしますか。”

やっと記憶の片隅から拾うことができたのは、いつどういった経緯があって言ったのか全く覚えていない己の言葉であったが、その言葉を思い出しただけでも何となく落ち着く。

「なあ、おい、甘寧。」
「あぁ?」
「俺、もうちょっと今を楽しむことにするよ。」
「・・・。」

すると、突然甘寧は足を止め、真剣な表情で凌統の額に自分の掌を押しあてた。

「・・・おい、熱なんてねぇんだけど。」
「突然何言い出すかと思えば。当たり前なこと言うんじゃねえ。」
「あんたは今を楽しみすぎなんだっつの。」

忘れないように、忘れてはいけないように。だから口にした。
今を楽しむとは多分、こうして甘寧と肩を並べて話ながら歩く事なのだろうな。
凌統は無意識に笑って甘寧と話をしながら、宮へ足を進めた。




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