目の前で煮える鍋の中には昆布が浮かんでいる。
「おい、そなた何を持ってきた」
「いや、言ったら闇鍋になんねぇし」
「我は・・・・クククッ」
笑いが止まらないのか元就さんの笑い声が室内に響く。
時々咽るのか「ゲホッ、ゲホッ!」と咳をしている。
「そんな笑い方するからだ」と親父に言われて背中を擦られている。
そう、今から俺等は闇鍋をするのだ。
持ち寄った食材を相手の鍋に入れ、何処まで食べれるかというゲーム。
勿論残ったり吐き出したりしたら過酷な罰ゲームが与えられる。
幸い今回は食材という食べられる材料のみという事だが、これが食材じゃなくても良いというルールならば確実に命の保証はないだろう。
「そんなこと無いよ信さん」
俺の心を読んだのか元春がニコニコと笑いながらこっちを見る。
「だって親忠が居るんだもん。
命の保証が無い物はいれないよ」
まぁ、親忠が食べなかったらどうなっていたかわからないけど、と不適に笑った。
「さて、ルールとやらを説明するぞ」
元就さんが「説明書」と書いた紙を取り出した。
「まず各自持ってきた食材をお互いの家の鍋に入れる。それを火にかけ、電気を消したらお互いの机に持っていく。鍋には仕切りがあるから互いに食べてほしい場所を言え。では、各自持ち寄った物を入れるがいい」
そうして、恐怖の闇鍋大会はスタートをした。

数分後、各自入れたものが出来上がったらしく鍋が交換される。
電気が消されているため見えないが、微かに香る匂いに俺の身体は少し強張る。
「和、もし駄目だったら吐き出していいからな」
「食物を吐き出すなんて真似はしませんよ」
そうよねーっと言って親忠が遠慮なく箸をいれる。
そして。
「・・・・・・美味しい」
と声がしたので一斉に振り返った。
「これ鶏のツミレ団子よね、春ちゃん」
「うん、親忠が前に食べたいとか言っていたから」
そう向こうから聞こえ「春兄ぃ、それじゃ闇鍋になりませんよ・・・・」と隆景の呆れる声がした。
やっぱり毛利は優しい方ばっかりだから、と思いながら俺も箸を伸ばした時だった。
「・・・・辛っ!!」
急に横の盛親がそう叫び、倒れた。
何事か聞こうとした瞬間、横から
「あ、甘い・・・・。これ苺大福?」
と親和はそう言って目の前の水を飲んだ。
「私が苺大福入れましたー」
可愛ちゃんの嬉しそうな声がする。
それを聞いて親和は「斬新で良いと思いますよ」と涙目になりながら返事をした。
「おや、盛親。貴方好きだといっていたでしょう辛い物が。せっかく私が手作りしてあげたんですから全部残さず食べてくださいね」
ニヤニヤと笑うのは隆景。
「隆景君、なにを作ったんですか?」
なおも倒れて震えている盛親の背を擦りながら親和が口を開く。
「世界で一番辛いと言われるブート・ジョロキアを態々取り寄せてもらって、練り物を作りました。勿論七味やらなにやらもいれています」
その一言に隆元が「一味の方が辛いですよ」と笑っていた。
さっきから毛利の方から悲鳴が上がっていないわね、と親忠が不思議そうにしていた。
「親忠ー、鍋にはやっぱエビシュウマイだよねー」
「盛親、私がモンブラン如きで怯むと思っているんですか?」
「親和さーん、この葡萄大福も中々斬新と思われますよー」
次から次へと嬉しそうな声がしたので俺は呆然と向こうの暗闇を見る。
「ククッ、毛利はな。どんな調理になっても食べれるものは食べるという術を身につけているからな!」
元就さんがそう叫ぶと
「単なる食いしん坊なだけでしょう。信親殿、このお魚美味しいですよ」
と嬉しそうな隆元の声がしたので「今日の朝一番に市場で買ってきたんだ」と言う。
「そう言えば信さんは兄貴の食べた?」
この頃になるとみんな目が慣れてきているらしく、立ち上がってこちらに向かってくる。
「え、隆元の?」
そう言えばさっきから家族の大惨事を見ているだけで自分は食べてなかったような・・・・。
「まだだった。隆元ってどの辺にいれた?」
「確か一番右です。私の好きなものを入れたんですよ」
そう言って隆元が近寄り、ストンッと俺の前に座る。
箸でそれを拾い上げると、俺の目の前に出した。
「口を開けてください」と言って隆元が微笑んだ。
まさかの『あーん』に俺は内心『両川ざまぁ!!』と思いながら口を開ける。
入ってきたものは少し大きめだったが、構わず口に入れて咀嚼する。
ムニュッとしたあと、なにか温かく甘い物が出てきた。
「隆元・・・・、これってまさか」
「はい、何時も行っている和菓子屋さんの白玉クリーム、黒みつ入りの餡子鯛焼きです!」
皮がパリッとしていて美味しいんですよ、と言うが鍋に入れてしまったせいでその食感がなくなってしまっている。
しかも鯛焼きだから皮に昆布だしやらさっきの七味やらがついていてこれはもう・・・・。
「隆元、とても美味しかったから今度は一緒に食べよう・・・・ね?」
そう言って俺は台所へ走っていった。
「信親殿・・・・・嬉しいですっ」
後ろから隆元の嬉しがるような声と両川の笑う声がした気がした。

結果、吐き出してしまった俺を除いては全員セーフだったらしく、俺だけ罰ゲームを受ける羽目になった。
罰ゲームを決めるのが隆元という事で少しはマシかなぁと思っていたがそんな事は無かった。
「私、陶殿と信親殿が仲良くしているところが見たいです。
何時も喧嘩していらっしゃいますから」
とションボリした隆元に「・・・・わかった」と了承した。
その後日、廊下で陶さんを待ち伏せし、目の前に現れて抱きつき「陶さん、これからも仲良くしてください!!」と言った。
なんのことかさっぱりわからない陶さんは「え、なにこの状況」と言って倒れた。
倒れた陶さんが保健室に運ばれるのを見ながら、なにか大切な物をなくした気がしたのだった。







箱庭式サーカスの岡崎葵さんへリクエストしたところ、素敵なお話を頂きました!
ありがとうございます!
あたしも隆元にあーんされたい!!