Quando la luce splendera!(甘凌+陸)

陸遜は自分の房ではなく、城内の書庫で執務をしていた。
長年小競り合いをしてきた山越の民たちと、再び近々大きな戦を行う。
そのために、兵法をもう一度確認しようと城内の隅にある古文書のみを扱う書庫に足を運んだわけだが。
今日の建業は晴天。薄暗く普段から人気の少ない静かな書庫には自分一人しかいない。
時折聞こえてくる鳥の囀りは、いっそ執務を放棄してしまいたくなるほど穏やかで、陸遜はらしくなく欠伸をしながら一つ伸びをして、筆を持ち直した。

(今日は仕事がはかどりそうですね!)

ところがそうでもないらしい。
突然書庫の天井に衝撃が走った。天井は崩れ落ちるでもなく、衝撃で天井の埃が薄暗い書庫の中で白く舞うだけだったが敵襲でないとも限らない。
陸遜は視線だけ辺りを見回した。
城内がざわついている様子はない。こういう時、騒いでいる連中といえば大方…

「あんた・・・こんなとこにいたのかい。見つけたぜ。」
「げっ、お前どっから来たんだよ!」

凌統殿と甘寧殿の声だ。
やっぱり。
どうやら二人は陸遜がいる書庫の真上にいるようだ。
さしずめ、サボっている甘寧殿を凌統殿が探し出したと言うところだろう。
最近建業でよく見かける光景だ。
お願いだから、執務の邪魔をしないでいただきたい。
陸遜は目を細めた。

「こんな真っ昼間からサボりを決め込むとはいいご身分だな、甘寧さんよ。」

ああ、全く持ってその通りです、凌統殿。
そのまま静かに且つ貴方ご自慢の速さでもって、迅速に甘寧殿をここから連れて行ってください。

「どうも卓での仕事ってのは苦手なんだよなぁ…。調練には顔出すからよ。」
「苦手だから放棄ってかい?アンタの筆が必要だって場合もあるのに…探す身にもなれっての。」
「うるせえな…昨日の夜頑張ったんだ。お前が一番知ってるだろ。」
「は、はあっ!?馬鹿じゃねーの!?俺が知るか!つーかそんな理由が理由になるわけねーっつの!」

・・・・・・・・・。
陸遜はたっぷりと深いため息をついた。
・・・そういう、関係だったのか。
ああ、そういえば言われてみれば二人のこれまでの言動を見ても自然なような、そうでないような・・・。
陸遜は筆を持っていないほうの手を額にやった。

「つーか、お前もここでサボってけ。」
「何いってやがるって、うわ、」
「いーからいーから。」
「あ!ちょっとッ!痛っ、服ごと抓るなって、離せ、はなっ・・・離せっ!!」

鈍い音がした。
どうやら怒った凌統殿が得物を抜いたらしい。
いつもそうですね、凌統殿。結局逆上して武器を取り出して・・・

「てめぇ・・・いい加減にしろよ?」
「あ〜、・・・相手してやりたいが、またどっか壊したら陸遜に燃やされちまうからな。じゃあな、凌統!俺はまた別の所で寝るぜ!」
「あ!逃げんな!待てこの野郎!」
(五月蠅いな・・・)

陸遜は冷静に考えながら筆を動かす。
その間、屋根から飛び降りたらしい二人は、この書庫近辺で盛大な追いかけっこをしだした。
凌統は甘寧めがけて回し蹴りにかかと落とし、はたまた二節混を取り出してぶん回すが、甘寧はそれら全てを綺麗に交わし、後に残るのは煙をあげて陥没した石床や壁に、折られた柱に木々等々。
確かに甘寧殿は何も壊していませんが。
これは連帯責任ですね。

陸遜は筆を置いた。
静かに席を立ち、書庫を出る。
日差しが眩しい。

「お二人とも!!そこまでです!!」

凛とした(そしてどこか怖い)声が木霊して、それまで盛大に暴れていた甘寧と凌統は術にかかったかのようにピタリと止まった。
そして同時に振り向いた先には、日差しのように爽やかな笑顔を浮かべる陸遜の姿があった。

「ぐ、軍師殿!?」
「陸遜!?ちょ、お前ッ、何してんだよ!!」
「それはこちらの科白ですよ、甘寧殿。私はそちらの書庫で戦術を練っていました。・・・甘寧殿。随分お暇なようですね?今日は呂蒙殿と凌統殿と一緒の仕事ではありませんでしたか?」
「いやあ、そうだけど「そうですかそれではサボらずに凌統殿と一緒に呂蒙殿のところへお帰りください。早急に!」
「・・・ごめんなさい。」
「大体貴方はご自身の仕事を放り出しすぎです。そして凌統殿を煽るからこんなことになるんですよ!」
「はあ、もっと言ってやって下さいよ、軍師殿。」
「貴方もです凌統殿!!」
「え、俺も!?」
「当たり前です!いつもは温厚な貴方ですのに・・・どうして甘寧殿が絡むと何故そうやって頭に血を上らせて喧嘩になるのですか?」
「だよなあ、陸遜もそう思「甘寧殿は黙っていてください。」
「俺は・・・お、俺だってそんなの知りませんよ!」
「それはともかく・・・お二人とも、少々痛い目を見なければ判らないようですね。今日はとてもよく晴れていますね〜。」

といって、清々しく笑う陸遜の目はどこか黒い。
甘寧と凌統は嫌な予感がして、同時に顔を見合わせた。
ああ、晴れてる。
盛大に晴れてんな。
この展開は、まさかだろ?
いや、この軍師なら、やるだろう。

無意識に以心伝心で会話できるのはこんな時ばかり。
陸遜は声高らかに叫んだ。

「朱然部隊!!甘寧殿と凌統殿を炭にしなさい!」

と陸遜が声高らかに叫ぶと、火矢をつがえた数人の兵士がどこからともなくやってきて、甘寧と凌統めがけて本当に火矢を放った。
案の定、瞬く間にあたり一面火に包まれ、甘寧と凌統は踊るように逃げまどう。

「う、うわああ!マジでやった!マジでやったよコイツ!ここ城内なんですけど!!」
「火!火を消せ!朱然!!お前も本気でやるなって!」
「スイマセン・・・。陸遜殿に刃向かうことはできないんです・・・。」
「はははははは、燃えろー!全て燃えてしまえ!!」

その後、尻に火がついた甘寧と凌統は、光の速さで同時に城内の池にダイブし事なきを得た。
陸遜の放火もすぐに消され、3人は呂蒙にこっぴどく怒られて、罰として書庫のある一画の修繕を任されたのである。







「陽の光が照らす頃(貴方を手に入れる)!」
タイトルは中国の姫様オペラのあの曲の詩から