25時の鬼灯(無双4)



※甘寧が凌統じゃない人(一般人)と致している描写があります。




静かな小雨の降る夜だった。
血のようにぬめり、温かく纏わりつく空気を振り払うように、陸遜はある場所へと足を運んでいた。

最近孫呉の中で、変な死に方をする兵が出ているのだ。
兵たちは全て遠征先で死んでいた。
死に方は様々である。心の臓や頭を射抜かれての射殺、絞殺、櫓からの転落死…。
戦場で兵が死ぬのは極々当たり前のことであるが、そうやって死んだ者は皆どこかおかしかった。
皆、前線ではなく陣営の中で死んでいるのだ。
最初は報告を受けていた陸遜も事故だと思っていた。だが、それが日に日に1人2人と増え、今や二桁に達してしまいそうである。そして、兵卒たちの間で密やかに噂が立ちはじめてしまったのだ。

“鬼がいる”

と。

このままでは兵の士気に繋がる。陸孫は独自に調査し始めた。
だが、調査を始めてみれば、犯人らしき者に辿り着くにも、その動機を探り当てるにもさほど時間はかからなかった。

だから、陸遜は事が大きくなる前に、そっとその者のところへ行くことにした。

向かう先は、街外れにある妓楼。
これは任務ではなく確かめるためであるし、また目立たぬように衣を簡素な物にしてきた。
懐には暗器を忍ばせてある。
大丈夫だ。
陸遜は、ひとつ喉を上下させると、中へ入って行った。





入口で名前を伝えると、盲目の老婆が場所を教えてくれたのでそちらへ向かう。
次々と伸びてくる蠱惑的な女達の手を払いのけ、一番奥の部屋の前で足を止めた。
無言のまま入るとまさにお楽しみ中であり、女性の細い体が艶めかしくのけ反っていた。

男の獣のような瞳が、陸遜を捉える。
まるで抉られてしまいそうだと陸遜は顎を引いたが、自分は何も間違ってはいないのだ。

「甘寧殿。」

その場の空気を浄化するように、陸遜は声をかけた。
やっと女が陸遜に気づいて、気だるそうに2つの体が離れた。

「何だぁ、いい所だったってのによぉ。」
「私の話はすぐに終わります。どうしてもお尋ねしたいことがあって参りました。」
「・・・なんだよ。」
「最近、陣営の中で変死する兵が出ています。」
「・・・。」
「敵にやられたのではありません、明らかに孫呉のうちの誰かが、殺しています。」
「・・・。」
「変死は、甘寧殿が出陣した時に多く見られるのです。そして・・・」

陸遜は甘寧の相手をしている女をちらりと見た。
長くて美しい黒髪だ。そして、目元に小さな泣き黒子がぽつりとひとつ。

「死んだ兵の多くは凌統殿を慕っていたそうです。」

生ぬるい風が吹き抜けた。
甘寧は身動き一つ取らず、陸遜をじっと見つめている。
陸遜は首筋に汗が流れるのを感じながら、甘寧の視線を弾くように見返して続ける。

「ですから、甘寧殿も何かご存知であれば教えてください。それから、甘寧殿も十分に気をつけて。」

そうなのだ。
死んだ者は皆、凌統を慕っていた。
凌統を陰から日向から賞賛し、いつか共に戦いたいと、水瓶に首を突っ込まれて溺死した兵がそう言っていたらしい。その他にも凌統の馬の綱を持ちたいとか、凌将軍に士官したいとか・・・。
凌統はこのことを知らない。知らなくていいと思う。
凌統はいつも、兵たちの死を伝えられては、“そうかい”と言って寂しそうに笑うのだ。
凌統があんな風に笑う所は見たくない。
ましてや仇が次々と兵たちを摘み取っているなど・・・。

甘寧はいつも逆立てている黒髪が降りていて、少し印象が違う。以外と長い前髪を無造作に掻きあげて、近くにあった水差しから一口水を飲んだ。

「・・・へえ、うちの野郎共にもそうやって死んだ奴がいるってかぁ?」
「ええ。皆に広まりつつあり士気に関わるので、伝えて歩いています。甘寧殿、このことは内密にお願いします。…では、お楽しみのところ失礼いたしました。」

陸遜は振り返って、扉を開いた。

「陸遜。」

呼び止められ、振り返る。

「お前も死にたくなければ、変な詮索はすんじゃねえぜ。」
「貴方は・・・分からなくなります。本当は凌統殿に殺されたいと願っているようで。」
「そうかもしれねえなぁ。」
「・・・失礼します。」

陸遜は扉を開け、その場を後にした。
鬼に肩を掴まれたような気がして、何もない右肩を乱暴に振り払った手は空を切った。







陸遜VS甘寧です。
何となく4甘寧のイメージはこんな感じです。
凌統が甘寧を追いかけているようで、本当は甘寧のほうが狂ってしまいそうなほどに凌統のことが好きで、次々と凌統に気のある奴を潰していくっていう話でした・・・。
どうか凌統が気づきませんように。
"いざ行かん、答えはその指し示す現在にあり"。