泡沫のあとに・13







甘寧はあれから、揚州の船団に導かれながら孫策の配下武将となった。
転々と戦場を駆け巡る日々を送っていたある日。馬を走らせながら一人江に行った。
静かだ。
江は霧深く、夕日の赤い光が、霧の粒も水面の底から溢れる小さな泡の粒も全てを赤く染めていた。
まるで、凌統の胴着の赤のようだった。
甘寧は馬から降りて、泡を手に取るように江の水を掬い取った。
泡は弾け、水は掌から零れ落ちてゆく。

「・・・。」

手には何も残らなかった。
思いも命も一瞬で残酷で、だからこそ美しく輝く。
例えばこの泡のように。
戦以外の一人の奴に、あれほど熱くなったのは初めてに等しかった。
そして、あの一度きりでいいとさえ思う。
だから。
あの時の甘い記憶も、ぬくもりも香りも、己の胸にしまってしまおう、ここで鍵をかけてしまおうと、小さく鼻から息をついて、ひとつ瞼を強く閉じた。

河岸にたどり着く波の音。
江の匂いは未だ立ち込めたままである。







某様と一緒に話していた時、とある曲が甘凌ソングだと盛り上がって”じゃあ私、この曲で話書きます!”なんて言ったのが、書き始めるきっかけでした。
書いていてとても楽しかったです。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました!