我が身は大乱

※現パロ&致しております。


甘寧は物に対して無執着だった。
好みはあるが特別に好いているものがなく、反して特別に拒絶する程嫌いなものもなかった。(食べ物の好き嫌いがないのは、飯を作る凌統にとっては有り難い事ではあったが。)
故に甘寧の私物は極端に少なくて、一緒に暮らし始めても増える様子は皆無だった。だが無頓着というわけではなく、何にも囚われずにその目その耳その感覚だけで嗅ぎ分けたものを身に着けているようだ。

ただ、一度気に入ったものがあれば、喜んでずっと身につけた。例えば凌統のおさがりのipodとか。駅前の露店で見つけたゴールドの10ゲージリングとか。そしてそれらをなくしたり壊したりすると、次に同じものを買わず、“あれはあれで終わったんだ”と、少し寂しいことを言ったのを、凌統は思い出した。



「で・・・なんで、こうなってるわけ?」

ほんの1時間ほど前だ。散歩に行っていた甘寧が帰ってきたのは。
凌統は仕事が休みで部屋の掃除をしていた。
掃除機をかけながら甘寧を盗み見てみれば、甘寧は珍しく何かを買ってきていて、機嫌良さそうに鼻歌なんかを織り交ぜつつ茶色の紙袋を破いていた。
しばらくしてパチリという不思議な音が聞こえたので、何かと思えば、甘寧が手にしていたのはポラロイドカメラだった。
出てきたフィルムに風景が浮かび上がるのを甘寧は素直に喜んでいて、今度はベランダに置いてある(放置しっぱなしの)鉢植えのサボテンにピントを合わせ始めた。
そんな背中を見ながら、凌統は可愛いところもあるんじゃないかとそっと笑って掃除をし続けた。

部屋の隅まで掃除機をかけ終わった直後に、突然真横で強烈な光が光った。
凌統は驚いて変な声をあげながら振り向くと、至近距離で甘寧がポラロイドカメラを構えていたのだ。

それから少々言い合いになるのは至極当然のことであり。

撮るなら撮れって言えよ!
いいじゃねーか別に。 減るもんじゃねえし。
心の準備があるでしょうが! つーかなんでポラなんだよ!
ポラって、なんかわくわくしねえ?
それとこれとは・・・まあ・・・好きにすれば?
おう。
ちょっとっ!てめぇどこ触ってんだよ!俺は掃除してんだっつの!
まあまあ、掃除続けろって。
続けろったって、ちょ、あ、



気が付けばしっかり身包み剥がされて、下の口には甘寧の指が3本埋まっていた。
抗っていたはずなのに、掃除機はいつのまにか止まっている。
甘寧は立てた膝の上にカメラを乗せて、器用に片手でシャッターを押している。
その度にカメラから吐き出されるフィルムは拾われることなく床に落ちたままで、一番近くにあった一枚を覗きこむように恐る恐る見てみると、あまりもの肌色の多さに思わず顔を背けた。

「あんた・・・趣味っ、悪い、な。」

口を開いた途端、中の指が動いてつい声を漏らしたと同時にまたポラロイドがパチリ。
さらに指が引き抜かれ、前のほうを握られたものだから、凌統は背筋が震えた。

「ん、・・・」
「・・・。」
「おい、って、マジ、っ掃除したばっかなのにっ」
「・・・。」

甘寧は終始無言だ。
上下する手が早まる。
握る力が強くなる。
ふいに先端を強く擦られて、腰が震えて、意識が白くなって。
また、パチリと。

(ああ、クソ・・・)

現実に意識を戻すように、荒い息を繰り返す。
腹のあたりに熱い液を感じた直後、丁度その上にフィルムが落ちてきて凌統は心底呆れた。

「あー・・・フィルムなくなっちまった。」

やっと口を開いたかと思えばこの台詞だ。
何がしたいのかさっぱりわからないし、いいようにされる悔しさや怒りは最初だけで、こうまでされてはどうでもよくなってきた。
せめて片腕で顔を隠そうとして額に手の甲を当ててみても、奴自身にこじ開けられて、また声が漏れてしまう。

コレがしたかったから、こんなものを買ってきたのだろうか。
だったらデジカメでよくないか?(第一デジカメをこんなことに使わせないけれど。)
そんな、思い付きで?
甘寧はいつもと同じ行為に少し毛が生えたくらいにしか思っていない気がする。それは凌統も同じだ。
だからなのかあまり興奮はしない。
例えば女だったら、ここで泣き叫ぶなり涙を流すなりなんなりして、そういうプレイに持っていくのだろうか。
でも、生憎自分たちにとっては不毛の行為である。
体を繋いだとしても、こんな行為を写真に収めた所で、残るものは何もない。
凌統は少しだけ寂しくなった。

突き上げられた拍子に頭を振ると、顔の横に床に手をついている甘寧の腕があった。
濡れた手の下には、自分の痴態が写った写真が1枚。
その向こうにも、その下のほうにも。

ねとりと首筋に舌を感じながら、凌統は蜂蜜のような慣れない甘さに思い当たって肩を竦めた。

(単純に、俺を撮りたいからってやつか・・・?)
(馬鹿じゃねえの、やっぱ、趣味悪ぃ・・・)

「甘、ね・・・」

掠れる喉で名を呼んでみれば、奴の腕が震えた。
凌統はほんの少しだけ口元を上げ、甘寧の首に両腕を絡めて、いよいよ行為に耽ることにした。







「このカメラ、どうすんだい?甘寧さんよ。」
「ああ?どうするっつったって、もうベッタベタのカッピカピだし使えね「そういうことじゃねえっつの!!すぐにぶっ壊すんなら買ってくるんじゃねえよ!しかも何写して・・・ああ、もう、捨てるぜ。フローリングも見るも無残になっちまって・・・折角掃除したのに・・・」
「細けぇこと気にすんなって、女子かお前。」
「一週間飯抜きな。」
「すいませんでした。」


凌統は盛大に溜息をつきながら気だるく洗面台に向かい、やがて雑巾片手に戻ってきた。その風貌は見事にしかめっ面だ。

フローリングを拭きだした凌統の背中を、甘寧はじっと見ていた。

凌統は知らない。
一番最初に撮った凌統の横顔の写真が、甘寧のジーンズのポケットに入っていることを。
そしてこの凌統の写真を、ずっと持っていたいと思っていることを。

(色褪せたら、また撮ってみるってのもいいかもな。)

甘寧はそんな自分の思考に肩を竦め、昼寝をしようとソファにごろりと寝転がった。







タイトルは某密室系バンドの曲の歌詞の一部からです。
閨って難しい・・・撃沈。orz
あ、前にあげた現パロの沿線上の話で・・・す。ぎゃん。