夜―The night―B(R-18)






※R−18






甘寧が孫呉にやってきた当所から、凌統は甘寧を仇として憎んでいる。
とはいえ、それは甘寧自身がどうにかできる問題ではなく、知ったことでもなかった。
この乱世、頭を下げても戻らないものばかり。それは凌統自身がよくわかっているだろうに。
そんな凌統が自分の首を狙っていることは知っていたが、国は甘寧に味方した。
凌統と任地を離され、顔を合わせないように仕組まれたのだ。
戦場を共にした時もあったが、その時も着陣場所は正反対。時々凌統の人隣りは耳に入るが、自分の目や耳で凌統を見聞きしたわけではない甘寧は、凌統がどんな奴なのか知らないも同然だった。

だから、あの現場に遭遇した時は少しばかり驚いた。

任地から久しぶりに建業にやってきて、子分達と宴会を催した帰り。
不思議な気配を察知して、息を顰めながら甘寧は気配のする路地裏へと近づいた。
緊張に顔を引きつらせ、直立不動の男が一人。
そして、その男の下半身を弄んでいるのは・・・凌統ではないか。
姿は遠目で2,3度見た事があるから、すぐに分かった。

「こんな所で、とはね。あんたも物好きだね。」
「す、すいません・・・。」
「いいよ。誰かに見られたら、俺が何とか言っとくしさ。その代わり、声は我慢してくれよ。」
「はい、ありがとうございます・・・っ。」
「感謝してるのは俺だっての。また次の戦で頑張ってくれよな。・・・さて、もう話はやめるとしますかね・・・。」
(・・・あいつ・・・。)

男同士の絡みは、戦場ではよくあることだ。
近くに村もなく手頃な女がいないとなれば、適当に処理するための相手として男を使う時もある。
しかしそれは戦場での話。ここは建業だ。
しかも、凌統の話では相手の男は凌統の斥候か、それとも兵か。あいつは自分を褒美に?
甘寧は眉を顰めた。
相手の男よりずうっと高い位置にある凌統の顔は、不思議な顔をしていた。理性はある。欲にまみれて色に溶けきってはいない。けれど目尻や唇の端が悪戯っぽく哂う度に、強烈な色香がこぼれ落ちるのだ。

(あんな汚物とは無縁みてぇな面が、あんな風に哂うのかよ。)

その表情から目が離せない。ふいに自分の下半身を見れば、見事に天を向いている。仕方がない、こういう現場を見ているのだ。
それに、凌統も美味そうだし・・・。

だから押し倒した。

「い・・・やだ・・・!」

服を裂き、地面に押さえつけ、殴り。
自分の髪を切ってまでする凌統の激しい抵抗は、自分を仇だと憎んでいるからだと思った。
あんな風に笑って男を相手にしていたのだ、場数は踏んでいると思ったのに、いざ突っ込んでみればちぎれるくらいの狭さで、堪らずに少し抜いてみると、己の雄に血がついていて驚いた。
凌統は、完全に汚れているわけではなかったのだ。

中で果てた後、凌統は気を失っていた。
ぐったりとした身体を反転させると、頬は土と涙でぐちゃぐちゃになっていた。
自分の掌で少しそれを拭ってやると、殴った時に口の中が切れたのか、唇の端に血が滲んでいて、舐めとるように唇をよせる。
そして自分の上着を凌統に着せ、凌統を担ぎあげた。
その拍子に、凌統が自ら切った髪が、僅かな光を照り返しながらあたりにはらはらと落ちていった。

「・・・。」

甘寧は、そのうちの纏まった束を拾い上げ、乱暴に懐に入れると凌統の邸へと向かった。



それから、凌統の姿は見ていない。しばらく登城していないと聞いたが、その理由はわからない。
凌統の邸の者はいい奴だった。夜更けにぼろぼろの主を担いで現れた自分を招き、何度も頭を下げて、数日後に主が世話になったと凌統に変わって挨拶に来た。
家人には、酒を飲んで喧嘩をしたと言ってある。その者が言うには、凌統は毎日邸の室に籠って、ぼんやりと外の風景を見ているばかりなのだという。

(くたばっちゃあいねぇか・・・。)
(腹の中に何が残るでもねぇのに、馬鹿な野郎だぜ。)
(何考えてるか、知らねぇけどよ。)

甘寧は懐に手を入れた。指先に当たったものをそっと取り出して見つめる。
あれからずっと凌統の毛束を持っている。
甘寧が知っている凌統は、これで少し増えた。
激しい殺意。
行為の時の熱と、声、皮膚、肉。

凌統の内にある深い何かには興味はない。
けれど。

・・・どうして、あの時、俺はあいつに唇をよせたのだろう。

考えるのは面倒だ。甘寧は深くため息をつきながら、髪の束を再び懐に乱暴に突っ込んだ。





Cへつづく










こんな感じで続きます。
のろのろ運転で更新しきます。