勾陣が落ちた日7(無双OROCHI無印甘凌)








※無双OROCHI無印ベースの話です。








次の日の村も、空は暗かった。
だが、眠りから覚めたら2人はすぐに、民に別れを告げて村を出発した。

凌統はずっと黙って甘寧の少し後ろを付いて歩いている。
目が覚めてから全くこちらの顔を見ようとしない。前を歩く甘寧は、そんな凌統の気配を感じながら、前を見て肩を竦める。
昨夜凌統を抱いた。
互いに慰めていた時に、奴の首筋に鼻を寄せたら身体の底から何かが沸きたち、果てた後も我慢しきれずに続きを問えば、凌統が首を縦に振ったような影が見えて、半ば押し倒す形になりながら奴を抱いた。
最初は痛いだの何だの言っていたのに、結局見事に長い四肢を放り投げて喘いで果てていた。
ここが夜でなければよかったのに。
奴の乱れた所を、もっと見たい。

(あれだけであんな反応するなんてな・・・さては凌統の野郎、あっちの経験は浅いな。)

甘寧は男を抱いたのはこれが初めてではない。
でも、凌統を相手にしたら、今までの経験のどれよりも熱くなった。それは、凌統の剥きだしの殺意と対峙した時とよく似ていた。
自分だけを見つめる瞳は、孫呉が無く敵が“オロチ”である今だけの先も、凌統の瞳を自分だけのものにしたい。
だが。きっと今の凌統にそんな自分の考えなどばっさりと切り捨てられるだけだろう。

(ま、あいつが孫呉を探すことは当たり前だしな。付き合ってやるとすっか。)

しばらく歩くと目の前に森が現れ、細い獣道をさらに歩いた。
そろそろ仮眠を取るかと思った時、風に乗って微かに水の匂いがした。凌統も気づいて、二人顔を見合わせること一瞬、2人同時に風が起きたほうへ向かって走り出す。
森が開けた。
空も一気に夜から曇り空に変わり、目の前に広がったのは。

「江だ!」

凌統が叫んだ。
対岸が見えない、大きな水の塊のようなそれは、紛れもなく長江だった。凌統が走って江の淵すれすれまで近寄る。
後ろから甘寧も近付いて、ぐるりと辺りを見回した。
残念ながら、船は見えなかった。

「ここは・・・どのへんだ?」
「土が湿ってる。夷道のあたりかな。江沿いを行ってみますか。」
「だな。」

こんな凌統との自然で穏やかな会話は、初めてだ。
甘寧は嬉々として前を歩き始めた凌統の背中を見つめて目を細めた。



江を見つけて江岸を歩き始めた直後、丁度2人が歩いていた江岸沿いに船が停泊しているのを見つけて、2人は気分が高揚したと同時に気配を殺した。
間違いない、船は孫呉の走舸だ。思わずどちらともなく固唾を飲む。
走舸に孫呉の牙旗は無く、敵が乗船しているかもしれない。
甘寧は体を近くの岩陰に、凌統は岩とは反対にある草むらに身を隠して船の様子を見た。
船を乗り降りする者はなく、船の上を往来する人影も全く見えない。そして、辺りにも気配はなかった。
2人は目で合図をしあって、少しずつ船に近付いていった。
近づけば近づく程、孫呉の船であることを実感して、凌統は涙が出そうになっていた。手元から消えてしまった国の断片が手に入るのだ。本当に嬉しくて、今すぐに飛び乗って江を奔りたい気持に駆られるが、今は状況が状況。敵の罠の可能性もある。慎重を重ねて近寄って行った。
近づいて、船に足を一歩踏み込む。
本当に船は無人のようだった。2人の警戒は徒労に終わり、早速甘寧が意気揚々と船に走り込んだ。続いて凌統も。
そして、互いに別方向に走り込んで、船を点検する。船底も、縁も、全部無事だ。また江を奔れる。
ほぼ同時に甲板に戻ってくると、凌統が船の甲板の硬さを確かめるように寝転がった。
ここは孫呉なのではないか。つい笑って江の水をたっぷりと孕んだ空気を肺一杯に吸い込んだ直後、澱んだ気配を察した。
刹那、甲板に弓矢が数本刺さり、咄嗟に甘寧は後ろに飛んで、凌統は転がりながら体勢を整えて立ち上がった。
船の入口には、孫呉を襲った魔物が数匹、禍々しい気を漂わせて身構えていた。将らしい数名の後ろには雑兵がいくつも群がっていて、すぐにでも飛びかかってきそうな勢いだ。
だが、甘寧と凌統の2人の士気はとてつもなく高かった。

「餌がかかったな。」
「こ奴らの首を持ち帰れば、オロチ様が喜ぶ。」
「やっぱ、お前らの頭はオロチってんだな。いいぜ、喧嘩相手は多いほうがいいってな!」
「やっぱり罠だったってかい!けど、これは元々俺達のもんなんでね。返してもらうぜ!」

咆哮と同時に、魔物が2人めがけて襲いかかってきた。
射かけてきた弓矢を甘寧が甲刀で弾き飛ばした瞬間、凌統が前に踊り出て、魔物の脇腹に高速の蹴りを数発叩きこみ後方に吹っ飛ばす。
そして息つく間もなく、突き出された槍を交わすように上に飛び、宙返りをしながら目の前の敵を蹴り上げた。蹴り上げられた魔物は、天高く吹っ飛び、どうと地に倒れると動かなくなって、やがて死体は消えていった。
その間、甘寧は凌統の元に走り寄りながら、身を捻って敵将を斬り裂いた。
凌統が着地する。背を伸ばしたら甘寧と背中を合わせていた。
僅かに横を向いたら、甘寧が肩越しにこちらを見ていたので、鼻で笑って笑みをくれてやったのが合図。
構えを取って、次々とやってくる敵の猛攻を蹴散らした。時々甘寧の振るう甲刀の切っ先の煌めきが視界に入るのが、邪魔だ。
奴には負けられない。それ以上に、敵に負ける気は微塵も感じなかった。
ああ、久しぶりの戦だ。心が躍る。
敵が霧散しなければ、甘寧とどちらが多くの兵を倒せるか、勝負するところなのに。孫呉を忘れかけそうになりながら、凌統は笑みを浮かべて回し蹴りを繰り出した。



辺りが静かになったあと、凌統はつい船の甲板に倒れた。
流石に2人だけで片付けるには聊(いささ)か敵が多すぎたのと、久しぶりの実戦で、よろよろと船に乗り込んだあとに、甘寧が碇をあげながら江岸の岩に足をかけて力いっぱい押す。
そして、走舸は少しずつ流れにのって奔り出した。
凌統は甲板に尻をつきながら、久しぶりの江の風を受けて気持よく目を細める。
これで、味方の目につけばいいが。
甘寧が近づいてきて、見下ろされる。
何だと言おうとしたら、突然覆いかぶされて、唇を奪われた。
凌統は何の抵抗もせず、変に色めくこともなく、されるがままにされていた。

(このまま、ここでやられちまうかな・・・)

衣のあわせに手をかけられた凌統は、江の風を感じることに専念した。

8へつづく


オフ用に1年以上前に書いた話なんですが、出しそびれた感がしてw、
この際なのでオンにあげることにしました。