勾陣が落ちた日13・凌統(無双OROCHI無印甘凌)








※無双OROCHI無印ベースの話です。








反乱勢力は各方面、各勢力が織田軍に合流し、凌統は城に辿りついたあたりでやっと戦場が官渡であることを把握した。
官渡の城を制圧した直後、近くの樊城に遠呂智の遠征軍がやってくるという知らせを受け、信長や秀吉とともに考えることをしたくなかった凌統はそちらに参陣し、こちらもまた勝利をおさめ、反乱軍はすぐに拠点としていた場所・荊州へと戻った。

それにしてもこの織田軍は、未知の場所の人間と中華の人間の混在しているにも関わらず、とても統率が取れている。
それもこれも、あの織田信長という男の存在が大きいようだ。
全てを吸引する力を手にしている・・・
だが、そんな信長は荊州の陣に着いてから姿を見せていない。
主に働いているのは光秀という端正な顔の武将と、秀吉という小柄身軽な動きをする武将が、それぞれ手分けして物事を動かしていた。

凌統は、資材に腰を下ろし、米を丸めて塩で味付けされたものを手渡された。
久しぶりに飯らしい飯を頬張り、心身共に癒されながら、辺りを見渡してみる。
蜀の老黄忠と、軍神の息子・関平が並んで兵の鍛錬をしている。厩で馬の世話をしている、煌びやかな武具を身につけているのは錦馬超だろうか。五虎将のうちの二人と、軍神の息子がいるのは心強い。
それから、長いこと敵として互いに睨みあってきた魏の曹仁もいるようだ。

孫呉の人間は、小喬がいた。
彼女は早い段階で戦国軍に合流したと聞いた。前と変わらず元気よく笑顔絶やさずに振る舞ってはいたが、陣営に辿りついた凌統の姿を見た途端、大きな瞳をみるみる潤ませて、凌統に抱きつきながら泣きだしてしまったのだ。
曰く、今まで殆ど孫呉の人たちと逢えなかった、孫呉の人に会えて嬉しい。それは凌統も同じであるから凌統は優しく頷いた。そんな小喬は今は、阿国という舞子とともに、陣の周辺を見て回っている。

(ホント、どんな縁なんだっての。ちょっと前まで敵同士だった奴らが味方で、味方だった人たちが敵だなんてさ。)
「凌統殿!」

よく知った声が、右のほうから聞こえてきてそちらを振り向くと、陸遜が驚いた顔をしてこちらに駆け寄ってきた所であった。
凌統も、飯を全て飲みこんで立ち上がる。

「凌統殿、ご無事でしたか!」
「ああ、何とかな。軍師さんも、ここにいたのか。」
「ええ。長坂から撤退したのはいいのですが・・・。下ヒで孤立した所を、信長殿に助けられました。今は、主に戦の策を立て、他の反乱軍の情報を得るのに奔走しています。」

そして凌統は、陸遜に、長坂以降のことと、官渡と樊城で見た遠呂智軍について話した。
小谷で再び孫策と出会ったこと。そこで、左近が孫策と合流していて、今度は敵として対峙したこと。小谷では、蜀の星彩という女武将が反乱軍としてあったこと。
また、凌統は官渡で妲己を見たことも陸遜に話した。
官渡の城に攻め入った途端、城の中には蠱惑的な気が充満していてむせかえりそうになり、思わず顔をしかめたのを覚えている。
場内から次々と沸いて出てくる敵を、他の将とともに片付けながら進んでいくと、大層魅力的な恰好をした女がいた。
一目でその女が妲己だとわかった。
一見、女性の持つ魅力をその体に集約しているような艶やかさを持っていたが、よく見ればどこかおかしい。耳は尖り、つま先は人の持つなだらかな曲線ではなく、毛に覆われた獣のそれをしていた。
この城に蔓延している気はこの女が振りまいているもので、その誘惑の渦中心にある情は、底なしの冷たさ。
棍を横薙ぎに払った時に目があうと、妲己は片目をつぶってみせた。心の弱い者は、それだけで心に入り込まれて、操られてしまうのだろう。凌統は小さく舌打ちをして打ち払った。

そして、樊城での戦では、やっとというべきか、敵として孫権に会った。
孫権とは孫呉での手合わせ以外では刃を交えたことがないが、それでもその心に迷いがあることが強く伝わってきた。対して、遠呂智遠征軍の指揮をしていた曹丕には迷いはなかった。心の奥深くに潜んでいる企てをいつ行動に移すか、気を窺っているように見えた。曹丕や孫策が遠呂智軍を裏切ることは、そう遠くはなさそうだ。

凌統は、一連の自分の行動を伝えた中に、あえて甘寧のことは言わなかった。
今は甘寧のことは考えたくなかったからであるが、きっと聡い陸遜のこと、既に疑問に思っているに違いない。
陸遜は穏やかにほほ笑みながら、口を開いた。

「星彩殿のことは、蜀の方々に知らせると喜ぶでしょうね。」
「ああ、あとで報告がてら挨拶しに行くとしますかね。」
「ええ。ところで凌統殿、甘寧殿はどうされたのですか?」

ほら。
小さく首をかしげて尋ねてくる陸遜の言葉は、凌統を無意識のうちに動揺させた。目線を泳がせながら、再び弱々しく資材に座ってしまった。

「ああ、あいつとも、はぐれちまいましたよ。」

そんな凌統の様子に、陸遜が何も思わないわけがなく、顔からほほ笑みを絶やさずに凌統の隣に並ぶと腰を下ろした。

「・・・もしや、お父上のことですか?」

どうして陸遜が父上のことを知っているのか。驚いて陸遜を振り向いたが、ほほ笑んでいるままの若い軍師の表情をみて、そこでやっと凌統は悟った。
甘寧同様、陸遜は自分が知るより前に、父上のことを知っていたのだ。
一体どれだけの人間が父の存在を知っているのだろうか。何故自分だけが父の存在を知らなかった?

(気を使わせちまったのかな・・・)

なんと情けない話だ。己の葛藤が周辺に認知されていて、気を遣わせてしまうなんて。あの甘寧でさえも。凌統は力なく笑った。

「父上は、どこにいたんだ?」
「私が長坂の前に合流しました。」
「・・・・・・そうか・・・。・・・・・・・俺、情けねぇな。」
「・・・実際どうなんですか。」
「正直、わかんないよ。本当に。父上が生きてるってったって・・・俺は、まだ見ていないし声を聞いてないんだ。でもみんなはもう、知ってるんだよな。・・・甘寧だけじゃ、ないんだよな。でも、あの時の俺の恨みはさ・・・そんなに易々と流すこと出来ねぇっての。」

みるみるうちに凌統の首がうなだれていくのを、陸遜は横で見ながら、凌統越しの辺りの風景を見た。
ざわめく陣営の中に、時折老黄忠の操る弓弦が空を切り裂く音が響く。ふと、その横にいた関平がこちらを向いたので小さく手を振って見ると、彼は笑って小さく礼をしてみせた。

「凌統殿、本当にこの世界は不思議ですね。当初は絶望に満ちていたのに、この陣営はこんなにも前を向いている。以前は敵であった方々や名も聞かない将たちと入り混じって、新たな絆の渦に飲み込まれていくのが分かります。その中には、複雑に絡み合ったものもあるでしょう。しかし・・・根拠のない言葉は好みませんが、きっと凌統殿もお父上も、そして甘寧殿も大丈夫だと思うのです。」
「・・・。」
「・・・絆とは、色々な形があるものですね。」
「・・・。」

凌統は何も言えず、ただ項垂れた先の地面をじっと見つめるしかなかった。




14へつづく


荊州の戦いはくどいかなと思って省略しました。
しかし戦国陣営は楽しそうで何よりです。