慟哭・前編(無双OROCHI2甘凌)








※無双OROCHI2のネタバレを大いに含みます。









「凌統でもいれば喧嘩できんだけどなあ。」

甘寧は大げさに溜息を吐いて赤い空を仰いだ。

甘寧は三方ヶ原で一人暴れていたのだが、騒ぎを聞きつけた呂蒙によって、半ば無理矢理討伐軍に加わっていた。
しかし討伐軍は未だ統率がなされておらず、甘寧は暫く陣営での待機を余儀なくされていた。
暇で暇で仕方のない甘寧の専らの暇つぶしといえば、福島正則との殴り合いだが、正則との喧嘩は同族同士のじゃれあいのようで、もっと命の張り合いをしたい甘寧にとっては、些か物足りなかった。
例えばそう、凌統と刃を交えた時のような。
凌統とのそれは、正則の拳とは比べるべくもない程血が滾る。殴りあいなどという可愛らしいものではない、武器を使ったまさに命を賭けた勝負で、閨での熱さに似ていた。

でも今、討伐軍に凌統はいない。
どこに行ったか音沙汰もないという。
また、この討伐軍というのは、かぐやという女の時空を超える能力を使って、討ち死にした将たちを集めて編成したと耳にした。しかし時空を超えて助けるには、最後に会ったものの記憶を辿らないと救えないらしい。
凌統もどこかでくたばっていたりするのだろうか。
もしそうだとすれば。
凌統がどこに出陣したのか誰も奴を見ていない。つまり誰も凌統を救えないということで・・・。

(・・・あ〜あ。)

考えても、目の前で凌統が倒れる所を見たわけではないし、時空を超えるなど途方もないことなので、いっそ馬鹿らしくなる。
これならば三方ヶ原に残り、一人で大群相手に喧嘩を売って鬱憤を晴らしていたほうがまだ良かったかもしれない。
仕方なく、陣営をふらふらと歩いている時、大男と小男が練師と話をしていた。
石川五右衛門と豊臣秀吉だ。

「そいつは本当かよ、姉ちゃん!」
「ええ、間違いありません。トウ水に妖魔の大事なものが運び込まれていると聞きました。」
「トウ水かぁ。おい秀吉、ちょっと付き合ってくれよぉ!」
「おい、何で儂まで一緒に行かにゃあならんのさ!」
「そりゃあ、俺とお前の中だろ?」

そこまでぼんやりと聞いていた甘寧だったが、ふと考えた。
警備が厚いということは、大量に妖魔がいる。暇つぶしにはもってこいだ。

「おい、練師さんよぉ。トウ水は妖魔の警戒は厚いんだろ?」

甘寧はふらふらと背後から練師に近づき尋ねる。甘寧の姿に気付いた練師は、小さく頭を下げてにっこりと笑って応えた。

「ええ。妖魔の軍勢がそちらへ向かう所を見ています。きっと厳重に守られていますね。」
「おぉう!じゃあ大事なものってよっぽど凄いお宝ってことだな!」
「へっそいつは暴れ甲斐があるぜ。」
「甘寧殿、まさか・・・」
「おい五右衛門に秀吉。俺も連れてけ!こんなに暇じゃあ身体が訛っちまう。」
「うーん、儂までひとくくりにされちゃあかなわんわ。しかしこの二人だけで歩かせたら些か危険じゃなぁ。」

甘寧は慌てふためく秀吉を煽るようにその尻を強く叩き、意気揚々と出て行った五右衛門の後を追って陣営の外へと飛びだしていった。





一行は勢いのままにトウ水にやってきた。
五右衛門が期待するお宝が本当にあるかどうかは別として、五右衛門がにおうといって侵入する砦という砦すべてに、妖魔がうじゃうじゃといるではないか。やはりついてきて正解だった、これは暴れ甲斐がありそうだと甘寧は喜んで駆逐していく。
それに甘寧は元水賊である。少しだけ五右衛門の求めるお宝に興味があったのだが、どうも胡散臭い。
案の定五右衛門が探り当てたお宝は、金銀財宝などではなく、三蔵法師であった。
しかも、三蔵法師を助けたことで妖魔に侵入を悟られ、こちらに進軍してくる始末。

「へっ、妖魔共にも気付かれたみてぇだ、俺はこのままもっと奥の砦に言って暴れてくるぜ。」

鎖鎌の柄を握り直し、つま先を奥の砦へ続く参道へと向けた時、助けた三蔵法師の曇った声が耳に入り、つい浮いた踵を戻した。

「困ったなぁ。奥の砦に凌統さんが捕まってるんだけど、このままじゃ・・・」
「何?」

凌統だと?
甘寧は走り出そうと僅かに振り向いて三蔵に尋ねる。

「おい三蔵さんよ、そいつは本当か。」
「うん、私より先に捕まっていたの。気を失ってたみたいだけど、大丈夫かなあ?」
「どこにいる。」
「ここより南の砦に連れて行かれたことは確かなの。一緒に行ってくれるの?ありがとう!」
「・・・。」

甘寧は三蔵とともに進軍するつもりは毛頭ない。ただ、一刻も早く凌統の面を見たい、それだけを思って前を見据え走った。



後編に続く






続きはねつ造のオンパレードになります。
というか、書き始めたら止まりませんでした。