スノーホワイト(ミヤ&トリ)






あの時のスイカが食べたいなぁ、と、トットリは白い空を仰いだ。
常夏の島で種を飛ばしあった時のあのスイカが…とまで考えたところで、隣で楽しそうに雪かきをしている親友の声が雪玉のように飛んでくる。

「おめ何してんだトットリ!手ェ動かせ手ェ!」

見た目にそぐわない濁った声は、どこに居てもミヤギのそれで、思わずトットリは笑ってしまった。

「ごめんだっちゃ、ミヤギくん」

ガンマ団本部に雪が降った。
降るだけならば、雪の被害とは無縁なガンマ団でいれた。が、久しぶりに本部にやってきたサービスとコタローが雪にほんの数センチだけ足を滑らせた。向かえに出ていたシンタローはそれをまともに目にしたこと数秒、団員総出の雪かきの命令を下したのだ。ちなみに叔父と弟はどちらもぴんぴんとしている。

そうして、本部に待機していたミヤギとトットリも他の団員たちとともに雪かき要員として駆り出され雪をかいている。
こういう時に役立ちそうなグンマとキンタローはといえば滅多に積もらない雪にはしゃいでいるし、アラシヤマは“集団行動は嫌だ”と言って部屋に引きこもっている。
コージは遠征中でいない。
秘書のティラミスやチョコレートロマンス初め、団員達の多くは嫌々雪かき道具を手にしたが、雪国出身のミヤギだけは、ノリノリでスコップ片手に外に出た。

そんな中、トットリはやはりスイカが食べたいと思う。

(雪とは無縁っちゅうか、腹は減っちょらんけどね)

今目玉焼きを普通に食べても美味いとは言えるけれど、心から美味いと頷けない。また、スイカは食べたいけれど、今ここでスイカを買ってきて食べてもこれもまた、心から美味いと言えなさそうだだった。地元鳥取のスイカを食べたいとも思わなかった。
南国で食べたあのスイカは、南国でしか食べられないのだ。
あれ程毎日見るのも嫌で、とうとうカブトムシの気持ちにならないとと覚悟を持った、あの、熱い空気と日差しの中で。
隣の、タンクトップ1枚で自分と同様にスイカにかじりついている親友の姿を見ながら。

(あの味は忘れられないってホントにあるんだらぁね)

ザクリと雪かきスコップを雪に突き刺した音と雪の白さが、妙に頭の中に響いた。

(下駄を使えば、この雪溶かして南国を作れるんじゃ・・・・・・?)
(・・・・・・やめとこ。僕の力なんて高が知れてるっちゃ。おてんとさんに顔向けできねぇ事はせんって、うん・・・・・・)

ザクザクと雪をかく。
これ以上顔向けできない事を増やしてどうする。いや、もう既にガンマ団に入った時から、忍の道に入った時から顔向けなどできるものか。
ならばいっそ、影を追っていこう。深くは考えるな、ただ、目の前の事をこなせばいい。それが生きている証・・・・・・
南国はそんな機械のように生きていた自分に、もう一度チャンスをくれたのだ。
影から振り返ってもいいと。熱を感じても、光を浴びてもいいと。
だから。

「痛って・・・・・・」

ザクリと力任せに雪にスコップを入れた瞬間、手が滑ってスコップの金具で人差し指の付け根を引っ掻いてしまった。
傷は思った以上に深かったようで、破れた皮膚から瞬く間に血が溢れだし、白い雪の上にポタポタと垂れた。
じわじわと痛んできた傷口と、雪に落ちたそれをトットリはぼんやりと眺める。

「何してんだぁ?トットリ・・・・・・って、怪我してんでねぇが!」

突然ぴたりと動きを止めたトットリに気づいたミヤギが、トットリの視線を辿って手の傷を見た途端、ひと際大きな声を上げて自分のスコップを放り投げて寄って来た。
そして、自分の手袋を片方取りあげ、トットリの怪我をしていない方の手に無理矢理かぶせる。

「手袋しねぇで雪かくからだべ!ほれ、おらの手袋片っぽ貸してやっから」
「はは、ありがとさんミヤギくん」
(ミヤギくんて、時々おかんみたいだっちゃ)

なんか、色々悩んでるのが馬鹿らしくなる。
ミヤギがやや乱暴によこした手袋は、ミヤギの温もりがまだ残っていてトットリはつい苦笑を浮かべた。
そんなトットリの顔に何を思ったのかミヤギは何か考えこみ、しばらくして考えた何かが分かったらしく息を飲んだ。そして、とびきりの笑顔を作ってトットリの顔を指差して覗きこむ。

「血みてぇに赤い唇に、雪みてぇに白い肌、それから・・・・・・なんだっけ?何とかみてぇに黒い髪を持った奴はだあれって。トットリおめぇ今それみてぇだ!」

それは白雪姫だと瞬時にトットリは思い出し、一体何が、どうして比べて、と瞬時に色々と突っ込みを入れたくなったけれども、カッと頬が熱くなっただけでとうとうその何一つも口にできず、ミヤギの補足に回るしかできなかった。

「ええと、確か“何とか”って黒曜石のことだっちゃ」
「こくようせき?」
「うーん、硯みてぇなもん?」
「んなら、硯みてぇな髪だな!」
「それ褒めてるのかわかんねぇっちゃよ、ミヤギくん」

僕をそんな風に例えるなら、雪のように白くて何もない心、黒曜石みたいな武器をもって、血を垂らすほうがあってる。そんなに綺麗じゃなくていいし、綺麗なものじゃない。
・・・・・・でも、同じ白雪でも何もない白さよりはそこに有る白でも、いいのか。
はあと息を吐けば、空気が白く染まった。

「ミヤギくんは、雪みたいに白い肌と血みたいな赤い唇まではあってるけどなぁ」
「ははっおら、金髪だかんなぁ」
「んー、筆みてぇに白い髪?」
「そこまで白くねぇべ!」

トットリは笑った。
やっぱり雪は解けなくていい。解かさなくていいのだ。
そして、自分が自然に笑っていることにトットリ自身は気付かないでいた。








トリちゃんおめでとう!
久しぶりに書いてみましたけど、自分的にミヤギくんが止まらない。
好きとかじゃなくて、止まらないです。
トリちゃんの目にはミヤギくんはどう映ってるのかなーと考えるとそれもまた止まらない。
アラシヤマから見たベスフレも凄そうで止まらない。
とにかくトリちゃんが幸せならそれでいいです。
なんじゃこりゃ