耐熱(ppw アラシヤマ&トットリ)



アラシヤマは一人ちびちびと冷酒を飲んでいた。

今日はガンマ団暑気払いの日ということで、流石に上層部はいないが幹部クラスや士官学校を卒業したての後輩たちまで勢ぞろいともあって、大きな旅館をひとつ貸し切っての大宴会。
人が集まるような宴会事は大嫌いなアラシヤマは、本当は、暑気払いの出席者名簿に目を通すことなく欠席しようとは思っていた。だが、いざ出席者名簿に目を通してみると、総帥であるシンタローの名前が書いてあって、さらにその横には出席の欄にマルがついているではないか。
これは行かなあかん、シンタローはんにお酌せんとあきまへんとピンクのペンで紙に穴を開けんばかりにマルをつけて、幹事のミヤギに鼻息荒く手渡したアラシヤマだが、今現在、やはり参加するべきではなかったと大いに後悔している。
1次会は大きな宴会場にずらりと御膳が揃っていて、自分の席があるからよかった。
シンタローも来た事は来たが、最初の言葉を言い、同時にやってきたキンタローが乾杯の音頭を取ったらすぐに仕事があるといって居なくなってしまった。
後輩達が時々社交辞令として酌をしに来てくれるが、人づきあいが最高に苦手な自分がかける言葉など見つかるわけがなく、少しすればアラシヤマの周りには誰もいなくなった。シンタローがいなければ全くつまらない。来た意味がなくなってしまった。そろりと抜け出して温泉に入り、さっさと布団に入って寝てしまいまひょ、と思った時に、ミヤギに捕まってしまった。

(ア〜ラ〜シ〜ヤ〜マァァ〜〜〜)
(な、なんですの顔だけの幹事はん!)
(オラ、幹事やってたからまァだ素面なんだべ。おめぇも2次会付き合え。)
(はァ!?わてはもうお風呂入って寝ますんや!もうこないな事に付き合いきれへん!しかもあんさんが幹事って、さっきの司会も出欠確認もコージはんにやらせてましたやろ!ほんに顔だけのお人どすなあ!)
(馬―鹿、シンタローのいない席で一番のトップはムカつくけどおめぇだべ。そういう奴はちゃあんと後輩が馬鹿やってるとこまで、付き合ってやるもんだべ。)
(それこそ顔が広いあんさんの役目やおまへんか?後輩の世話なんてわてに振られても困りますえ。それにトットリはんもコージはんもおりますやろ。)
(いや、おめぇも来んだ。)

と言われて引きずられて来たはいいものの、二次会は旅館内の居酒屋で席は決まっていなかった。アラシヤマは溜息をつきながら一番奥の端の席に着いて、知らない冷酒を頼み静かに飲んでいる。

今は後輩達が居酒屋にあるカラオケで、酒に酔い潰れかけた下手な歌と踊りを披露している。まわりもまわりでどんちゃん騒ぎ。
アラシヤマだけが、そこで暗く飲んでいた。

(はあ・・・冷酒も温ぅなってしまいましたわ。そろそろおいとましまひょか。)

アラシヤマは辺りの空気を乱さぬようにそっと席を抜けようと黙策しかけた時だった。
いきなり横からどんと大きく誰かが吹っ飛んできた。
何だと思ったら、それはべろべろに酔っぱらったトットリで、思わず瞠目したアラシヤマはとりあえず手元の酒をこくりと飲み事態を把握しようとする。
トットリは酔って真っ赤な顔をしながら珍しく大声で後輩達と何か話をしていて、ニコニコ笑いながら後輩たちを指差して笑っている。ぶつかったアラシヤマのほうには謝罪どころか顔を向けようともしない。
そしてトットリは、そのままアラシヤマに背を凭れながら話しはじめたものだから、アラシヤマは二次会場から抜け出せなくなってしまった。

(なんやこの人。いつもはあんまり飲まんのに。今日はこんなハイテンションになって。)

本当はトットリのことなどどうでもよく、その場からさっさと抜けてもよかったが、このまま自分が席を外したらトットリが体勢を崩して大惨事になりかねない。
しかしトットリが凭れかかるほうの半身が気持ち悪い。人の体温を感じているからだ。
しかもよりにもよって腹黒い忍者のものときた。
もしかしてこの忍者はん、わざとわてに凭れてるんやろか。
いや、違うな。そんならもうちょっとお酒控えてはるはずや。
ああ、もしかして・・・。

アラシヤマは、トットリを抱えてすっくと立った。

「なんじゃい、アラシヤマ。お前もうちっといたらいいじゃろ。」
「いや、わてはもうこのへんにしときます。わて、久しぶりに沢山の人に囲まれて人に酔いそうや。ミヤギはんとコージはんが、後輩さんたちとゆっくりお話してればええんどすわ。・・・で、こっちの忍者はんはすっかり酒に酔ってるさかい。そろそろ潰れはる頃や。わてが連れていきます。」
「アラシヤマ〜・・・僕ァ酔ってないっちゃよぉ〜。」
「酔っぱらいの忍者はんなんか使い物にならしまへんえ。さ、とっとと行きましょ。」

辺りの視線が居酒屋の出入り口に向かう二人に集まる。笑い声もなくなり、カラオケのBGMだけが店内に響いていた。
カラカラと居酒屋の引き戸を開けて、外に出ればそこはホテルの赤絨毯。
そこを、アラシヤマはトットリを抱えて歩く。トットリはといえば、アラシヤマが着ている浴衣の袖を指で弄びながらヘラヘラと笑っていた。
ちっとも面白くないアラシヤマはすぐ近くのエレベーターに乗り、自分が宛がわれた部屋の階を押した。

「・・・で、あんさん、どうして機嫌悪いんどす。」

トットリはいつもにこにこ笑っている。任務中は真面目な顔になるが、あまり怒った顔を表に出さない。味方相手ならば尚更である。
トットリはやはりへらへら笑いながら小さな声で言う。

「・・・あの二次会の居酒屋のお姉ちゃん・・・僕に年齢確認させてくれって言ったっちゃ。結構僕、自分の顔コンプレックスだいや、こんな席でなかったら殺ってたかもしれん。」
「ハッ、下らんなぁ。だからって酒で誤魔化すのはやめとくれやす。振りまわされる人間がおるさかい。」
「は?僕ぁなんもしてねぇっちゃよ?」
「・・・今のわての身になってみぃ。」
「はは、コンプレックスの塊に言われたくないわいや。」

さっきからトットリの体温が気持ち悪くて気持ち悪くて仕方がない。
かといって、そのへんに放り投げておくと何をしでかすかわからない。さっさと部屋の布団にこの忍者を寝転がせて、とっとと温泉に行こう。そして、この気持ち悪くて仕方がない体温を、湯の熱さで洗い流してしまおう。

アラシヤマは、やはり来るのではなかったと、大きな溜息をついてエレベーターから出た。





アラシヤマは人の体温苦手そうだと思いまして。
熱いか冷たいかどっちかしか手につけなさそう。
忍者さんは、殺意芽生える程怒っても普通の人相手には顔に出さないといいな。