上昇気流(ppw ミヤギ&グンマ)






ミヤギはグンマのSPとして、学会会場のホテルまでやってきていた。
本来なら学会発表はキンタローの担当なのだが、あちらは別の学会に出席しつつ、その後はシンタローのSPに回る手筈になっている。
一応ミヤギもスーツを着用し、会場に入って舞台袖で待機しつつグンマの発表を聞いてはいたが、スーツは堅苦しいし、グンマの口から出てくる単語も、その後の質疑応答での質問者の発言もそれに応答するグンマの回答も全く理解できない。あの馬鹿息子の博士たる場面を垣間見た瞬間であった。

「ミヤギー!ありがとう!」

発表を終えたグンマが、拍手鳴り止まぬ中、袖に戻って来てミヤギに二コリと笑いかけた。

「はぁ〜・・・。やっぱおめぇも馬鹿な開発してるだけじゃねんだな。おら、ちっと見なおしたべ。」
「やだなぁ、そんなに褒めないでよ。それに・・・今日の発表はキンちゃんと共同で研究した事だし、発表の書類も大体はキンちゃんが作ってくれたものだもの。」

学会の発表はグンマで最後で、次は別フロアで行われる親睦会への参加となる。そこには各国の研究者もいて中には敵対国出身の者もいる。まだ気は抜けない。
ミヤギは周囲を警戒しつつ、グンマとともに発表会場から廊下へ出て歩き出す。

「どうすんべ。荷物持ったまま会場に行ってもいいんだっぺが。」
「いいんじゃないかな。僕もう疲れちゃったよ、早く美味しい料理食べたいな。ミヤギも疲れたでしょ?いっぱい美味しいもの食べようね!」
「や。オラは任務中だ。おめぇの命預かってっかんな。まだ気ィ抜けねぇ。」
「・・・そっか。」
「あ、んでもよ。それ終わったら、どっかいい店で奢ってくれっと嬉しいなぁ。」
「うん!わかったよ〜。覚えておくね!」

ミヤギの後ろをついて歩くグンマは、両手で己の鞄を持ちながらやや目線を落とした。

「・・・ミヤギ、これ、僕の大きな一人事ね。前見ててね。」

ミヤギは言われるがまま、黙って前を見つつ一番近くにあったエレベーターに乗り、親睦会が行われるフロアがある階数のボタンを押した。
二人きりの密室内の空気は、やや沈んでいる。

「おとーさまは、僕をグンちゃんって・・・。息子だって言ってくれる。僕はコタローちゃんが僕の実の弟って知って・・・本当に嬉しいんだ。キンちゃんも僕の従兄でいてくれて嬉しいんだ。でも・・・でもね。コタローちゃんは、シンちゃんの事をおにーちゃんって呼ぶんだ。僕の事はグンちゃんって呼ぶんだ・・・。お兄ちゃんに、なれないのかな。それに、開発ではキンちゃんが活躍してるし、いざという時はキンちゃんだって戦える。・・・総帥はシンちゃんだし・・・ハーレム叔父様やサービス叔父様だって・・・ねえ、僕って」
「伏せろグンマっ!!」

エレベーターが親睦会会場フロアに辿りつき、ドアが開いた瞬間、待ち受けていたのは複数の銃口であった。
その上にあった黒い笑みと目があった瞬間、ミヤギは血を吐くように叫び、同時にパンパンと辺りに軽い音が鳴り響いた。

「っくっ・・・」
「ミヤギ、ミヤギ!大丈夫!?」
「グンマおめぇはっ・・・怪我はねぇが!?」
「ないよっ、でもミヤギの腕がっ・・・!」
「こんなのかすり傷だべ・・・!」

咄嗟に体当たりをした1人は首の骨を折って沈め、ミヤギは胸元から取りだした銃で2人を仕留めたものの、敵の弾が腕を掠めた。しかしこんな傷、前線で負った傷に比べれば言葉通りかすり傷に等しい。残りはあと3人。3人は一度散らばって形を顰めているが、敵の弾はまだ残っている、まだこちらを狙っているだろう。

今日は生き字引きの筆は持ってきてはいない。あれは大きく、護衛をするには目立つからである。

(どこだ・・・どこに隠れたんだべ・・・)

ミヤギはこういう時、自分は護衛や暗殺には向いてないのではないかと思う。
トットリならもっと敵の気配を察知できているかもしれない。コージなら力勝負で次々となぎ倒しているかもしれないし、無理矢理グンマと逃げているかもしれない。アラシヤマなら一気に炎に包んでいたかもしれない。
つい舌打ちをした。
背後に小さく揺れた気配。
そちらに向かって引き金を引くと、敵の1人が頭から血を流して倒れた。あと2人は・・・

「ミヤギ!!」

グンマが後ろから叫んだ声が聞こえたのと、ミヤギの顔のすぐ横を青白い大砲のようなものがもの凄いスピードで飛んでいき、こちらを狙ってきていた弾丸もろとも残り2人の敵を飲みこんで爆発したのはほぼ同時であった。

「・・・。」

ミヤギがゆっくりと振り向いてみると、青い瞳を大きく見開き肩で息をしながら片手の掌をこちらに向けているグンマがいた。
グンマが咄嗟に眼魔砲を打ったのだ。
その立ち姿には、パプワ島で見たシンタローやサービス、そして、コタローやマジックを彷彿とさせる、まさに青の一族が持つ誰も寄せつけないような覇気があり、思わずミヤギはごくりと喉を上下させた。
だが、暫くするとグンマはその場にぺたりと座りこんで、声を殺して泣きだしてしまった。

そんなグンマを見ながら、ミヤギは先ほどエレベーターの中でのグンマの言葉を思い返そうとする。
けれど、結局グンマが何を言いたかったのか、今の銃撃で既にミヤギはグンマの言葉を忘れかけていてしまっていて、自分の頭の回転の悪さともの覚えの悪さをこの時ばかりは後悔した。
が、ミヤギが知りうる限り、グンマが眼魔砲を打ったのはこれで2回目である。最初の1回はパプワ島だったがその1回では誰も殺してはいない。2度目のこれが、一番最初の、人殺し。
いつもは研究室にいて人殺しの兵器を作っているのと、己の手で殺すのとどっちがいいとか、流石に天秤にかけることはできるわけがねえべ・・・。
ミヤギは後頭部を掻きながら、一歩グンマに近づいた。

「グンマおめぇ、今おらを守ってくっちゃんだべ?」
「・・・っ」
「あんがとな。」
「・・・。」
「おら、青の一族の事はよぐ理解してねぇんだげんど・・・青の一族もガンマ団も、おらの仲間で守る奴っつーのはよっくど解ってるつもりだ。そんで・・・ええっと・・・おめぇは、今もシンタローと従兄弟だっつー考えは変わりねぇんだよな。」

すると、グンマはこくりと大きく頷いた。

「ならそんでいいべよ。おめぇはおめぇで他とは別に守れる力がある。それから、おらが見ででいっつも思う事があんだけどよ・・・。」
「・・・何?」
「おめぇ、シンタローにもキンタローにも、あと他の上層部の人等とか、おら達にも抱きついたり普通に話ができてんべ。そん時はいっつも笑ってっから、心の底から嬉しかったり楽しいんだんべなぁって。それにさっきの発表も、おらから見れば凄ぇかったし。眼魔砲打てて、戦場体験無ぇ青の一族ってほうが、おらは凄ぇと思うけどな。」

すると、途端にグンマは青い瞳を更に潤ませてミヤギを見つめた。そんなグンマに、ミヤギは面倒そうに手を差し伸べる。

「ほれ、もう今日は親睦会さ行かねぇでこのまんま帰んべ。狙撃されたんだ、敵もきっと探知してんぞ。」

そんなミヤギの手を取り、グンマはぽろぽろと止まらない涙を手の甲で拭いながら立ちあがる。
しかしその足取りは、ミヤギの後をつきながらでもゆっくりと一歩一歩進んでいた。

「・・・僕初めて、眼魔砲を打って人を殺したよ・・・」
「・・・。」
「凄く、怖かった。」
「おとーさまもシンちゃんもキンちゃんも・・・コタローちゃんも・・・きっとこんな風に怖いんだよね・・・。」
「・・・おめぇ、殺すとかいう単語似合わねぇから言うんでねぇ。」
「うん・・・。」
「おめぇ、シンタローにひとつ有利なことあっぞ。」
「・・・・・・血、だよね。」
「シンタローがどんだけコタロー様に“おにいちゃん”って呼ばれてても、血筋はおめぇしか兄ちゃんって名乗れねぇ。」
「・・・それ、シンちゃんに言ったら・・・」
「きっと殺されんべなぁ。」
「うん。・・・でも、お兄ちゃんってコタローちゃんが決めることだし・・・何人いても、いいよね。」

グンマに言ったはずの言葉は、じわじわとミヤギ自身に還ってきた。

“おめぇはおめぇで他とは守れる力がある”

そうだ。
生き字引きの筆は、筆で字を引いて生かすんだ。相手を殺す事もできれば、使う文字によっては壊れたものを直すことが出来る。
けれど、ミヤギは己の心の中を探ってみても壊れたものも失ったものも見当たらなくて、嬉しくなった。

「・・・そっか。これがら使えばええっちゃ。」
「どうしたの?ミヤギ。」
「ん、何でもね。」

さあ、早く帰ろう。
帰るべき場所に―。







どうにもアラトリだと陰湿になりがちなので、爽やかなのを書きたくて、ミヤギとグンちゃんのお話を書いてみました。
グンちゃんは、マジック・シンちゃん・キンちゃん・コタローちゃんとはまた別の覇王的要素があるといいなあ。日本やイギリス皇室・王室のロイヤル的な気質というか、とにかく一族の中の包容力の塊みたいな。
そしてミヤギのほうは、天然ボケとはいいつつ顔はいいしそれ以上に人がよくってノリもいいから自然と周りに人が集まってくるんだけど、何とな〜く伊達衆の他の3人と自分の能力を比べて若干劣ってると思ってるといいと思います。
でもやっぱ、生き字引きの筆って使い方によっては人を殺せるし、色んなものを合わせたり直したり、ジョジョでいうクレイジーダイヤモンドとかゴールドエクスペリエンスみたいにできると思うんです。しかし使っている本人の頭がそこまで解ってないw
そしてアラシヤマあたりは、生き字引きの筆の凄さが解ってるんだけど言わない。
シンちゃんも、ミヤギがあまりに懐いてくるから言うタイミングを逃す。
トットリはというと、ミヤギが生き字引きの筆の使い方を全て知ってると思いこんでいて、誉め倒す。もしくは上っ面でしか褒めない(うわあ)
コージは自分も使ってみたいw
天然な部分はありつつも、前向きを自覚して進んで行くミヤギくんとグンちゃんって、癒しなコンビだといい!
・・・にしても宮城弁はどこまで書いていいのかわからなくなりますね。