流れ流れて@(6甘凌+a)


※女性のオリジナルキャラが出てきます。
甘寧と凌統は既に恋仲です。
地名が多く含まれます。


甘寧も凌統も、藩屏として今まで大小関係なく、何でも仕事をこなしてきた。
特に凌統は、前線で敵と衝突する以外に、伝令も偵察も、死地を見る程の殿も、軍備の補給も、託された任は、全て成果を挙げてきた。国に使える者なら、国のために尽力することは当然であり、それが武官ならば、どこでも体を張る覚悟がなければならない。そのための鍛錬だし、自分自身の存在意義でもある。
しかし、今回の任を呂蒙から話を受けた甘寧と凌統は、珍しくすこし嫌な顔をした。
護衛だ。行く先は武陵。

護衛する人物は、魯粛の祖母の遠縁にあたる女性で、古くからの尚香の友人でもあった。女官として後宮で働いていて、尚香が劉備のもとへ嫁いでからも建業に残って暮らしていたが、故郷の武陵に住んでいた母が死んだので、戻ることになったそうだ。
公主でもない女性1人に、一国の将軍が二人もついて護衛するなどと、聞いたことがない。ましてや、呉の使いなどではなく国に帰るだけなのに。
唯一の救いは、今現在、魏蜀と均衡を保っていることぐらいか。

「おっさん、そのくらいの護衛は野郎共で良くねえか?納得いかねえな。」

溜まらず声を上げた甘寧に、凌統は肯定も否定もせず、ただ黙って呂蒙を見た。呂蒙は顎を撫であげながら、やや困ったように小さく首をかしげた。

「うむう…。女官長方に進言したのだがな。お前達二人をと推して聞かぬのだ。」
「理由はなんだよ。」
「口にして下さらぬ…。嫌な気は感じなかったが、何を考えているのかわからん。すまんが、俺からは頼んだとしか言えん。」
「まあ、俺は護衛でも何でもするよ。ついでに劉備軍の動向も探れるしね。でも、何でまたどうしてコイツと一緒なんだっての!」
「んだと?またかよおめぇ。いちいち突っかかってきやがって。」
「やめんか二人とも。出立の日取りは決めてあるそうだ、準備を頼んだぞ。」

いつものように喧嘩になりかけた二人を、呂蒙は呆れながら止め、二人に再度任をこなすよう、釘を差してその場は収まった。



出立の日がやってきた。
甘寧は船の通路の壁にもたれて、離岸の時を待っていた。
ぼんやりと船の艪の数を目で追う。櫓手担当の兵は16名。船は中型の軍船である。

(これじゃあ、護衛っていうより行軍じゃねえか。)

深くため息をついた。
公安までは船で行き、そこから武陵までは陸を移動する。
武陵のある荊州南部は、その土地をめぐって劉備と対立している場所だ。故に、護衛とはいえ警戒しながら進まなくてはいけない。また、2人もある程度の様子は見るつもりだったし、だからこそ小さな斥候船で、兵も最低限の数を揃えるだけで、相手を刺激しないよう、目立たないように出発する予定だった。
しかし、一回り大きい蒙衝で行けと上から命令が下ったのだ。

(何かあるってことだが…理由を言わなきゃ納得いかねえぜ。)
(変なもんはないみてぇだから…仕方ねえけどよ。)

岸では、女官が未だ知人たちと別れを惜しんでいる。
女官の斜め後ろには、凌統が待機していて、じっと女官を睨んでいる。早く乗船してほしいが、女官に声をかけることができずにいるようだ。甘寧はつい噴き出してしまった。しかし、その時丁度凌統の視線がこちらに移動したものだから、大げさに肩をすくめて、その場を後にした。
今回女官と話をする役目は、凌統に全て押し付けている。
元々甘寧は、怖いと言われたり扱いに困ったりで、女子供の相手をするのが苦手だ。
そんな自分が相手にするよりは凌統のほうが人当たりがいいだろうから、とそれなりに配慮してのことだったのだが、あの女官の相手は疲れる、と、珍しく凌統がぼやいたのを昨日聞いた。
凌統の言葉はわからないでもなかった。
首を伸ばして、今一度女官を見てみる。

(いまいちな女だな。)

まずその見た目である。子供のような低い身長で、横に広い体。着物の上からでも腹の脂肪が揺れるのがわかる。脂肪が邪魔をしてか、荷の積み上げ等の動きは、見事にのろまだ。顔にはそばかすが散らばっていて、唇は厚く瞳は狐のようにとても細い。それでも、愛嬌があるならばいいけれど、その表情が乏しいのが気に入らなかった。
凌統曰く、内気な性格、らしいが。
しかし、挨拶もろくにできない、目もろくにあわせないというのも、内気に入るのだろうか。

「先が思いやられるぜ。」

岸で数人の声があがり、やっと女官が乗船した。即座に甘寧は声を上げて、兵たちに出岸の合図を送る。
凌統が岸から綱を放した。兵たちも配置に着き、艪手たちが一斉に艪を動かす。
船が水を掻きわけ、ゆうるりと景色が動き出した。
今の季節、江の流れは緩やかだ。二月程で帰って来れるか二月も船の上にいては、戦の腕が訛ってしまいそうだ。その時は、凌統にでも相手をしてもらうか。ああ、しかし、凌統は誰かと鍛錬するのを嫌がる奴だったな。
甘寧は舌打ちをして、帆の張り具合を確かめようとその場を後にした。




2へ続く




交地で出す本のボツネタです。
それなりの量があり、完成したので、救済のためにサイトにあげることにしました。
オリジナルキャラを入れるのはあまり好きではないのですが、二人の仲を裂くようなことがなければ(笑)、いてもいいのかなと思います。
だってホモが好(略)