最終手段・後編(OROCHI2甘凌)


※in三方ヶ原。無双OROCHI2のネタバレを大いに含みます。




凌統は苛立っていた。
次々とやってくる妖魔の頭蓋を両節棍で打ち砕き、蹴りでもって筋骨を砕く。それでも心は晴れるどころか苛立ちは募るばかりで、吹っ飛ばした妖魔の脳漿が放物線を描いてべちゃりと服に貼りついた時につい舌打ちをした。
門が開いたのが目の端に映ればそこに向かって走り抜け、後ろから甘寧と福島正則の喚き声が聞こえてくるがそれすらも振り切るように、身体全体を使って妖魔を倒してゆく。

(煩いねぇ・・・。)

何もかもが。
後ろからついてくる味方の声も、妖魔の叫び声も、戦火も、この世界の時空を超える手段も。
もっと黙れ。
黙ってくれよ。
助けるとか助けないとか、生きるとか死ぬとか、もっと単純でいいはずなのに。
変な妖魔は出てくるし妖魔の味方になる人間はでてくるし倒したと思った遠呂智どころか変な妖蛇は出てくるし・・・。
あんたはこんなところで、誰一人分からない場所で、独りで死んじまうし・・・!



気が付いたら、凌統はトウ水で自分を捕縛していた孫悟空を倒していた。一体何で、どんな技で倒したのかすら覚えておらず、もう敵がいないとわかると、凌統は肩で息をしながら赤茶けた大地を睨みつけた。
ぎり、と血まみれの両節棍を握りしめ、その場に佇む。
苛立ちは未だ晴れない。

凌統の俊足に味方の誰もが追いつけず、やっと一番最初に凌統の元へ辿りついた甘寧が、凌統の足元に死屍累々と横たわる妖魔を見て、落胆の声をあげた。

「おい・・・!凌統てめぇ、俺の分ぐらい残しておきやがれ!!」
「・・・。」
甘寧の言葉に凌統は応えなかった。その代わり、その辺で見つけた肉まんを甘寧に向かって放り投げる。
瀕死であった甘寧は、単純にありがてぇと言って頬張り、凌統も甘寧が咀嚼するのを背中越しに気配で感じとった。
そして。

「おい、甘寧。」
「あ?」
「歯ァ食いしばりな・・・!」

振り返りざまに思い切り甘寧の頬を殴った。
殴り飛ばされた甘寧は、見事に吹っ飛んで派手な音をたてて地面の上に倒れたが、すぐに凌統は走り寄り、甘寧に馬乗りになって袈裟掛けにしていた鈴の紐を引っ張りあげて睨みつけた。
瞳の端に、ぽかんと口を開けて棒立ちになっている福島正則と加藤清正、そして、二人より少しだけこちらに歩み寄って様子を見守っている呂蒙の姿が映る。
それでも凌統は、甘寧に顔を近づけて声をあげた。

「あんたさ・・・こんなとこで独りで死ぬ気だったのかよ・・・!」
「・・・。」
「誰も味方が居ないところで・・・誰もあんたが居たって知らない所で・・・!」
「・・・。」
「孫呉にいる限りあんたは孫呉の将なんだよ、自覚しろっつの!それに・・・あんたの命は、俺が狙うんだ、こんなとこで死ぬな、馬鹿野郎!」

何故か必死な凌統の姿を、甘寧はずっと怪訝な顔で見ていた。
ただ自分は暴れたかっただけだ。
何にも縛られずに暴れられる場所を求めて。それが死に場所でも別にいい。誰も知らなくても、己の死は己だけが分かっていればそれでいい。そうして、屍の上に草木が芽吹けばいいと思うのだが、凌統はそうとは考えていないらしい。
凌統の言葉は時々少なかったり、多かったり、回りくどかったり、色々あるが、こんな風に全力で殴ってくるのが一番分かりやすかったりする。

(こんなとこで死ぬな、か。)

「泣くなよ。」
「泣いてねぇよ!」
「おっさーん!凌統が泣いてんぜー!!」
「泣いてねぇっつの!!やっぱお前なんかここで死んじまえ!」

そう言う凌統の手は、甘寧の鈴の紐からずっと離れることは無かった。
そして、凌統の中の苛立ちもいつの間にか消え失せていた。




しばらくして後、陣営内では甘寧と福島正則の殴り合いが時々見受けられるようになったが、正則が凌統を河原へ誘う場面も見かけるようになったとは、また別の話。






(かぐやさんに聞いたよ。元の世界の父上は助けられないのかって。)
(・・・。)
(元の世界で死んだ人間は、ここには居ても元に戻ったら死んだままだってさ。)
(何でそんなこと、俺に言うんだよ。)
(・・・・・・よかったね。あんた、俺の仇のままだぜ。)





OROCHI2で以前書いた「慟哭」の逆バージョンです。
6凌統はなんか簡単に甘寧を殴りそう。