ある日の日常(R-18)





普通の休日だった。
甘寧はいつも働かせてもらっている美容室から呼び出しをくらい、朝早くから出向いていて、いない。
洗濯も終え、掃除も終え、昼飯もあるもので適当に済ませた凌統は、珍しく暇な時間を持て余していた。
とりあえずテレビをつけてチャンネルを色々と回してみるけれども、この時間の放送はどれもイマイチ。凌統はソファに座りながら頬杖をついて、何の面白味もない放送を流しながら溜息をついた。
昼寝でもするか。いや、しかし久しぶりの休日だし何かしておきたい・・・。かといって、以前買ったまま全く手をつけていないゲームをする気も今更起きないし、部屋にある本や雑誌も全て読みつくしてしまっている。
凌統は参ったねと後頭部を掻いた。

(買い物でも行こうかな・・・)

そういえば、雑誌の新刊が出ているはずだ。
日常品で特に買い足す物は思い当らなかったけれど、Yシャツあたりはあと数枚あってもいいかと考え出したところで、そういえば数日前に甘寧がDVDを借りて帰ってきたのを思い出した。
偶々ソファ近くにDVDが袋に入った状態で転がっていたので、手に取って見てみると返却日が迫っているではないか。買い物ついでに返却してくるか・・・。何の気なしに袋からDVDを取り出してみたら、中に入っていたのはいわゆるAVで、呆れて掌で両目を覆った。
奴はどんな性癖を持っているのか、面白半分罵りの種にとDVDを手に取り、裏面の宣伝文句を見てみる。

“アイドル○○似の素人Iカップが挟んでご奉仕!本番潮吹きマジイき収録!”

「・・・。」

とりあえず甘寧は胸がデカい女が好きなのは知っているが、一体いつ見ようと思ったのか。そして果たしてヌいたのか。
色々と甘寧に尋ねるのも面白そうだと思いながらも、凌統自身もDVDの内容が気になってきた。
これは男である以上興味が沸くのは仕方がない。例えそういう行為ができる相手いるとしてもだ。
そう、仕方がないんだ。
だってそうじゃないか。これは健全な男子たる証拠だぜ!
・・・今なら俺が見たことは無かったことにして、そっと元に戻して返しに行けるじゃないか・・・。
・・・と、自分に言い聞かせながら凌統はDVDを取り出して、DVDプレイヤーにセットし、チャンネルを合わせて、ソファに座りこむ。

「・・・。」

DVDは素人(に、扮したAV女優だろう)がスタッフに勧誘されるところから始まり、気が付いたらホテルに場面転換していた。
脱いだ女性の胸はIカップと謳っているだけあって、見事な大きさ、形。凌統は別に巨乳フェチではないが、流石におおと声を漏らした。
そこまではよかった。
直後の女優の上目遣いアングルでのご奉仕でキてしまった。
自分の息子は一瞬にして固くなりジーパンを押し上げ、情けないなどと考える余裕なく凌統は前かがみになりながらジッパーを忙しなく下に降ろし、下着ごと取り払った。

「・・・・・・あ〜・・・やべ〜・・・」

右手で自らを慰めながらの一人事など最早気にならない。
馬鹿野郎と罵られようが、どうだっていい。
ただただ、目の間で繰り広げられている情事をオカズに、昇天を目指すのみ。例えその後に情けない後悔が押し寄せてこようとも、欲には勝てないのが人間だ。
甘寧もこうしたのかな・・・?
テレビの中では既に本番に入っていて、女の子の喘ぎ声と聞き慣れた濡れた音がひっきりなしに聞こえてくる。
またテレビの音の合間やそれに合わせるように、この部屋にも凌統の右手が動く度に濡れた音が響きはじめ、さらに欲が身体中に駆け巡る。

あ・・・もうすぐイっちまう・・・
ティッシュどこだ・・・?

と、熱を孕んだ目でテーブル上に乗っていたティッシュ箱に手を突っ込んだ凌統は、一気に青ざめた。
ない、1枚も。
テーブルやソファを汚すのは嫌だ。だがしかし、爆発寸前の息子を止めることなど今更できるわけがなく、咄嗟にトイレと思いついた凌統は立ちあがって少しの距離を全速力で走った。

が、天は凌統を身離した。
トイレ手前の、キッチンと廊下のコーナーにあろうことか足の小指を打ちつけ、その衝撃で全てが吹っ飛んでしまったのだ。
痛いと思ったのも束の間、俺の下半身はどうした。涙目のまま慌てて顔をあげれば目の前には冷蔵庫があった。
その冷蔵庫の丁度ど真ん中に、白い液体が放物線を描くように情けなく冷蔵庫に張り付いていた。




「たでーまー」

帰ってきた甘寧は、リビングに向かって間抜けな声をあげる。
陸遜にしては珍しく急な招集ではあったが、行ってみれば予約のない客でごった返していて、次々と先髪・カットしつつ客を捌いて、何とか落ち着いてきた時を見計らって帰ってきた。
が、珍しく凌統の返事がない。今日は休みだと言っていたから昼寝でもしているのかと思い、ずんずんと廊下を進んで行った。

「うお!?」

リビングに進みかけた甘寧は後ずさった。
カウンターキッチンの壁に、ぴったりと寄り添うように冷蔵庫が設置してあるのだが、その冷蔵庫を、凌統がぼんやりとした顔のまま布巾で拭いていた。
しかも、下半身は何も履いていない。
裸族に目覚めたとしても中途半端だ、一体何があったと流石の甘寧の心配になってしまう。

「お、お前ぇ何してんだ?」
「・・・」
「おい、凌統。」
「・・・」
「おい!凌統!聞いてんのかよ!」
「・・・あ?ああ、あんたか・・・。」

一心不乱に冷蔵庫を拭きまくっている凌統はやっと手を止め、甘寧を見上げた。が、それ以上は何も話さない。そして、再び冷蔵庫を拭き始める。
とりあえず、甘寧はリビングを見た。
テーブルには、数日前に自分が借りてきたAVの箱がある。箱は開けられたままテーブルの上にあって、肝心のディスクはその中に入っていない。テレビもDVDに設定してある。
何となく色々と悟った甘寧は、恋人へというより男の性欲に同情し、未だ冷蔵庫を拭いている凌統の隣に座った。

「もしかしてお前ぇ、冷蔵庫にぶっかけたのか?」
「・・・だったらどうなんですか〜・・・トイレに走ったら躓(つまず)いたんです〜・・・」
「ぎゃっはははははは!れっ・・・れいぞっ、冷蔵庫って、お前っ・・・れいぞ「煩い!!何度も言うな!!・・・あ〜あ・・・冷蔵庫って・・・冷蔵庫って・・・あ〜あ・・・どうしてティッシュが1枚もなかったんだっつの・・・。」
「ああ。それ俺が昨日使ったから。」
「・・・あ?」
「俺も昨日ヌいたら、無くなった。」
「・・・。」

うわ。
凌統は隣から聞こえてきた声を心の中で反復しながら考える。
しかも、何だって?“ティッシュを使ったのは、俺だ”だって?俺のこの情けない姿はつまり、あんたのせいにしていいってことだよなぁ?そして、こいつとシチュエーションが被るなんて何となく嫌だし、少し嬉しく思う自分も嫌だ。
凌統は布巾片手にすっくとその場に立ちあがった。

「・・・。」

一体どうしたのか、そして、いきなり立ちあがった凌統の下半身を拝もうと甘寧は見上げようとしたが、思い切り顔面に布巾を叩きつけられてその絵面を拝むことは叶わなかった。

「うぶっ!」
「・・・じゃあ何かい、俺がこんな情けない目にあったのはあんたのせいだってことかい?・・・いいや、そういうことだよなぁ?」
「おい凌と「今すぐティッシュの補充しろ!そんでティッシュの箱詰め買ってこい!ついでにDVDも返して来いっつの!馬鹿野郎!」

そうして自分の部屋にずんずんと進んでいった凌統は、思い切り部屋のドアを締めつけて、そして辺りは静まりかえった。
その場に置き去りになった甘寧は、凌統のにおいがついている布巾片手に、凌統が消えた部屋のドアをぼんやりと眺めた。
そして、リビングを見れば未だ凌統が脱ぎ捨てた下着とジーパンと、そして自らが借りてきたDVDがある。

「・・・別に今更だよなぁ。」

しかし、冷蔵庫は少し同情する。
とりあえず甘寧は、布巾をゴミ箱に放り投げて言われるがままにティッシュを補充しつつ、DVDを箱に入れて返却袋と財布片手に再び外に出た。

帰ってきたら、奴の機嫌が治まっていればいい。そして、二人でしかできない愉しみに耽ればいいだけの話だ。






す み ま せ ん 。
としかいいようがない内容で本当ごめんなさい。
しかし、冷蔵庫にぶっかける情けない姿は本気で爆笑しながら書いてましたw