白い空※R−18





甘寧が一瞬息を詰めたのと、内腿と凌統が口で奉仕していた甘寧自身が小さく痙攣したのが合図。
口に出されてなるものかと、即座に凌統は口から引き離したが同時に熱い液が顔中にかかってしまい、やっちまったと心の中で呟いた。
凌統は顔をしかめながら顔や髪にかかったそれを手の甲で拭ったはいいが、においは取れない。甘寧を睨みつけた。

「おいあんた、これどこで洗えってんだよ!」
「韓当のおっさんにでも手ぬぐい借りてくればどうだ?」
「誰ができるかそんなこと!」

おっと、と、慌てて凌統は荒げた声をかき消すように肩を竦めた。
魏軍に夜襲を仕掛け、撤退の準備をするのに甘寧と凌統は未だ濡須口に残っているのだが、ここは陣営を張っているすぐ近くの林だ。
しかも陽は未だ天の上にあって、甘寧は元より、あれほど戦で着込んでいる凌統も、互いに衣を脱ぎ捨てて、そっと絡みあっていた。
こうしているのは今に始まったことではない。
合肥の戦が終わって暫くしてから・・・だろうか。
全てが曖昧で勢いだけだった。
酒が入って、いつもの如く口喧嘩になり、なら拳で勝負だとなって、それがいつの間にか身体での勝負になって、痛いだの臭ぇだの騒いで朝を迎え・・・。
それが、今やこんなにも声も気配も消して行うことができている。

(やれやれ・・・勝利の杯は酒だけで十分じゃなかったのかねぇ)

呂蒙さんは殿にいい酒を貰ってきてくれるといったが、どんなものかとふと気を逸らしていたら、一度果てたままの甘寧の腕が頬に伸びてきた。
そして、あの、数刻前の魏軍に仕掛けた夜襲の時に見せた荒々しさとは全くかけ離れた繊細さを持った指でそっと、凌統の頬から首筋へゆるゆると辿る。
そんな優しさ、誰がいるなんて言った?

「お前ぇ、あんだけ着込んで暑くねぇのかよ。白い肌しやがって」
「誰かさんと違って、敵陣に突っ込んで怪我したくないんでねぇ・・・っ」

未だ天を向いている甘寧自身に、凌統はにやりと笑いながら跨った。
今度は口ではなく尻で根元まで深く銜えこむ。
流石に一気に貫くのは背筋が痺れたが、既に慣れてしまった身体、笑う余裕はあった。
大丈夫だ。・・・大丈夫。

「おーおー、美味そうに銜えこんでんじゃねぇか。そんなに欲しかったかぁ?」
「っ誰がっ・・・あんたこそ、全っ然萎えないっねぇ・・・頭もこっちも、ぶっ壊れてるみたいだ、な、ぁ・・・」

甘寧の腰が動いてつい声が上がる。
昨日の夜襲では鈴が煩いと言ったのに、今になって鈴をつけていないとは一体何なのだ。
しかし凌統は堪らず前のめりになり、偶々掌を置いた所にあった雑草を握りしめた。
ああ、もう声を抑えられない。けれど気配だけは隠さなければと、自らの腕を噛もうとしたら、甘寧の腕が伸びて来て唇を塞がれた。

(どうしてこんなことし始めたんだ・・・)

いつも、身体を重ねる度に理由を考える。
し始めた理由、続ける理由、拒まない理由。
今と鳴っては僅かな後悔より諦めのほうが強く、そして、大概は事が進んでいくうちに全てを快楽の渦に溶かし込んで、まあいいかでその場は終わってしまうのだけれど。
こんな草の上でヤっちまうなんて獣と同じじゃないか。
ああ、でも人間も獣だな。
・・・特に、今下から突き上げてるこいつは・・・。
ふと、凌統の目の端に木漏れ陽の一筋の光が目につき、一筋の光を目で上へ辿って行くと、白く光る天の星がその目に焼きついた。
甘寧から唇を離し、考える前に本能の声が出る。
自ら腰を激しく動かす。
そうだ、俺の悩みなんて、他人の悩みとどれくらい重みに差があるか解らない。
どれがちっぽけで、どれが大きいか、誰も解らない。
だったら、考えなくても・・・本能に忠実に、もっともっと、高いところへ・・・

(ああ、俺もあんたと同じ獣だ・・・)

自らの快楽も昇り詰める。
甘寧の息が上がる。
声も吐息も濡れた音もぐちゃぐちゃに混ざりあう。


― 同時に昇りつめた場所には、何もなかった。





「うわ、お前さあ、髪にはかけんなっつったでしょうよ!」

乾き始めていた甘寧のそれがついた前髪の一束を発見し、凌統は再び顔を顰め、咎めた。
そんな事お構いなしに、甘寧は自らの衣を履いて近くに転がっていた鈴を手繰り寄せる。

「ンなこと言っても待ってくださいっつったって、我慢にも限界はあるだろうが。お前も知ってんだろ」
「っけどさぁ・・・こっちの身にもなれっての」

顔がくせぇだのがびがびするだの、ぶつぶつ呟きながら凌統もとりあえず服を着て、近くの江の支流で顔を取りあえず洗う事にして、そちらのほうへ向かっていった。

「なんだぁ?お前どこ行くんだ?」
「江だよ。あんたので汚れた顔を洗いに行くんだ。あ、韓当さんの手ぬぐいはいらねぇから声かけなくていいからな!」
「・・・俺も行こっかなぁ、江」

どうして甘寧がそう思ったのか、甘寧の思考がどうなっているのか解らないのは今に始まった事ではないので、凌統は敢えて無視した。


しかし、後ろから付いてくる鈴の音に、少しばかり安心したなんて。また悩みが増えてしまったと凌統は小さくため息をついた。









7のふたりは男同士あっさりしているようで、深みがある感じがしてならんです。
私はホモが書きたいんじゃない、男同士の会話や色んなやりとり、葛藤が書きたいんだ!
そして、凌統はシリーズが増えるごとに悩みが深くなっていってるような気がするんですが。
また、許し方もだんだんあっさりしてきてる気がするんですが。どうなんでしょうね。