長曾我部信親が中国にやってきた(瀬戸内色々)

長曾我部信親が中国にやってきた。

「今日も元気そうで何よりです、元就殿。」
「今日はあの鬼はやってこぬか。」
「ああ、残念ながら。でも代わりといっちゃあなんですが…。」
「?」

大広間で元就は、両脇に三兄弟を従えて信親をもてなしていた。
前にいる信親の後ろのほうには、頭を垂れていた者が一人。
紫地に大きな扇と牡丹を散らした華やかな模様の入った着物を、しっとりとした鬱金色の帯を締めていて、柔らかそうな銀色の頭を彩る簪には七つ酢漿草の紋と丸一文字の紋が一つずつ。
さらには腕には豪奢な腕輪がいくつもはめ込まれ、耳にも大きな翡翠がごろりとしていた。
その派手な身なりは、前田の風来坊を彷彿とさせる。

信親が促せば、線の細いその者は面をあげ、元親によく似た顔に柔和な笑みを浮かべていた。
その瞳もまた元親と同じ紫で、明るく煌めいている。
後ろにいる元春が溜息を洩らす。
元就の心の琴線には引っかからなかったが、世間一般ではこういう者を美人というのだろう。

(長曽我部の娘か…否、そのような者、聞いたことはないが…)

「あの、これからこの奴が自己紹介をしますけど、びっくりしないでください。」

毛利一同、頭の上に疑問符が浮かんだ。信親殿も不思議なことをいう。
信親が軽く後ろに目配せをすると、長い銀髪を軽く揺らして女が深々と礼をした。
その次の瞬間。

「長曽我部元親が3男で津野家当主、津野親忠で〜す!毛利の皆さん、仲良くしてね!」

「…。」
「…。」
「…。」
「…。」

その声は誰がどうやって聞いても低く、破壊音が聞こえてきそうなウィンクと投げキッスは、もろに隆元に直撃した。

「…あふん。」
「ぎ、ぎゃあああ!!!兄貴が倒れた!!」
「兄上っ兄上!!貴様、魔物を連れて来たか!!」
「ひどいな〜景ちゃん。そうだ、今度遊びにきてよ。姫野々城って可愛い名前のとこにいるからさ〜。」
「かっ景ちゃん!?気安く呼ぶな!そして誰が行くか!」
「隆景ヤバイぞ!父上もフリーズしてる!」
「毛利は親忠みたいな人間の耐性がないからちゃんとしろっていったんだけどな〜。」
「その前に連れてくるな!」
「だって信ちゃんとパパが毛利にハマってるって聞いたから〜。」
「ぱ、パパ!?」
「我等一族を流行物のようにいうな!」

その後、親忠は数日中国に滞在。本人曰く“愛と勇気”をふりまき、毛利家中は元就・隆元を中心に大混乱に陥ったという…





これが続いてしまうのです。