長曾我部信親、四国に帰る(信隆?)

吉田郡山城下の毛利の屋敷内、朝餉時・・・
長曾我部の息子たちは未だ安芸に留まっている。

「春ちゃん、あ〜〜〜〜ん。」
「・・・(パクリ)・・・。」
「美味しい?」
「・・・。」

四国の津野親忠と山陰を治める将・吉川元春は、朝から夫婦のようにいちゃついている。
本当は元春がされるがままになっているだけなのだが。
二人のやりとりを、苛々しながら見つめるものが一人。

(ああ、もう元春兄は一体どうしたのだ!これでは四国にされるがままじゃないか!)

隆景は、椀の中の飯をぐりぐりかき混ぜながら憎々しい表情を浮かべるが、それを口に出来ないのには理由がある。
親忠に近づけない。
今までこんな人間に出会ったことはない。今まで読んだどの書物にもこのような人物は出てきていなかった。出てきたとしても魔の類であったし、そもそも理解の範疇を越えている。どこからどうやって切り崩していくか全く検討もつかない。

「あの・・・津野殿。」

同席していた長兄・隆元が口を開く。

(よっし!隆元兄!そこで“出て行って下さい!”と言ってしまえ!)
「ん?何お兄ちゃん。」
「・・・・・・・・その・・・・・・津野殿は、男のほうを好まれるのか?」
「「えええええええええええッ!?!?!?」」
「いやいやいや!何言ってんだ、兄貴!」
「そんな!ダメです隆元兄!!」

その懐の広さ(時々すごく狭くなるが)と情の厚さから毛利最後の常識と呼ばれる隆元が、得体の知れない親忠の向こうに見える男色に興味を示したような発言をしたから、弟二人は狼狽える。
親忠はしばらくキョトンとした顔をしていたが、すぐに隆元に笑いかけた。

「う〜ん、ま〜どっちかといえば女の子のほうが好きだけどね〜。」
「そ、そうか・・・・・・・・・・・・・ならば、体の関係はどちらも・・・?」
「あ、兄上っ・・・・・・・!?」

元春と隆景はこのとき、兄が汚れた・・・と大ショックを受けて言葉も出なかった。
それでも親忠はニコニコ笑って応える。

「あはは。それは女の子がいいかな〜?」
「そうか!それならば安心・・・」
「安心?」
「いや、何でもないです。私も大内で義隆様や陶殿に迫られたことがあって・・・。あの方達は本当に夜伽を迫ってくるものですから…「拒めなかった?」
「おまっ!兄貴になんてこと言うんだ!!」
「いや、今の話の成り行き的にそうでしょ〜?」
「必死に逃げてなんとか貞操は守りましたよ。」
((ホッ。))
「おはよ〜、隆元。」
「ああ、信親殿。おはようございます。」

もしかしたら兄上は、この毛利の中で誰よりも男色に免疫があるのやも・・・と考えたところで、先に朝餉を食べて席を立っていた信親がやってきて、隆元と話している。
身なりは旅支度使用。どうやら四国に帰るつもりらしい。
帰るといったら、津野親忠はまだダダをこねるのだろうか。
そうなった場合、四国に文を送り援軍を要請したほうがいいかもしれない。そして父上にも要相談だ。場合によっては、毛利の強弓で追い払うというのも念頭に置いた方がいいだろう。
隆景は持ち前の機転でさまざまな予想を立てる。

「忠、帰るから用意してね〜。」
「はーい。」
「はあっ!?」

隆景の予想に反し、親忠はあっさりとしかも嬉しそうに返事をして信親へ抱きつくようにして近づいていった。
予想外の展開につい、隆景は自分の膳をひっくり返してしまい、巨大な女男はこちらを振り向いた。

「?どうしたの?景ちゃん。」
「貴様!」
「?」
「貴様どうして帰るのだ!!」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」

(・・・あれ?)

隆景は、どうして場の空気が止まってしまったのかよくわからず、兄たちの顔を見る。
隆元は完全に固まっている。元春は青い顔でこちらを見ていた。
何か、変なことを言ったのだろうか。

「タカカゲ、ワタシハオマヘノコノミニトヤカクイウツモリハナイガジョセイノヨウナダンセイデハナクジョセイノホウガイイトオモウノダガ「隆景!!馬鹿見ろ!兄貴が壊れただろ!!」
「・・・私、今変なこといいました?」
「へ〜、景ちゃん。そんなにあたしと離れたくないんだ?」

ポンっと親忠に肩をたたかれて、小早川が当主はそこでやっと理解した。そして、己の言動を必死になって弁明しようとするが、時すでに遅し。

「ちちち違う!!そのような意味で言ったのではない!!」
「ごめんねえ、信ちゃんが帰るっていうからあたしも帰らなくちゃいけないからさあ、景ちゃんならいつでもイイわよ。」
「何がだ!」
「隆景も親忠に慣れたみたいだなー。」
「勘違いするな!!」
「ハハノスガタヲホトンドオボエテイナイトハイエ、ドコデドノヨウニキョウイクヲマチガエテシマッタノカ」
「隆元兄も早く帰ってきてください!!」
「まあ、アレだ。多分親父も喜ぶだろうよ。(四国征伐できるってな)。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッみんな死んでしまえ!!」
「ぷごっ!!」

ひっくり返した膳を掴んで全力で投げると丁度信親に当たったが、隆景はそんなことおかまいなしに脱兎の如く部屋から出ていってしまった。

「景ちゃんおもしろーい。」
「あ〜あ。ああなったら3日は機嫌悪いままだ。」
「まあ、ちょっといじりすぎたかな?」
「まだ元服したて故。御無礼を許してください。」
「ああ。わかってるよ。じゃ、親忠帰るか!」
「うん。また来るね、春ちゃん、次は白無垢用意してくるからね!!」
「は、はあ・・・。」

こうして、土佐は長曾我部元親三男で姫乃野城主・津野親忠は四国に帰っていった。
一方隆景は、なぜか一週間ほど女性不信に陥ったという。







まだまだ続きます・・・。