出陣A

現パロです。

(・・・めんどくせぇ。)

盛親はフンと鼻で溜息をついた。

今日の不運は部活(写真部)がいつもより遅く終わったところから始まっていたのかもしれない。
学校から帰る途中、空腹をかかえて惣菜の匂い漂う商店街を歩きながら昼飯は何を作るか考えていた。
確か、冷蔵庫の中身が空っぽだった。まず食材を買って行かなきゃいけない。財布にいくら入ってたかなと考えつつスーパーに入ろうとしたら、駐輪所で婆娑羅二高のヤンキーが喫煙しているのを見かけた。

「・・・。」

嫌なのに出くわした。
盛親は年齢にそぐわない長身と生まれついての銀髪のせいで悪目立ちするため、ああいった方々の格好の餌食となってしまう。
5,6人なら喧嘩沙汰になってもやっつけられる自信はある。でも今回は一人では対処できない人数でたむろっているから過剰反応はよろしくない。
痛い視線を感じて、ああ、やっぱり今日はついてないなと肩で溜息をついた。

「おいソコの中坊。ちっと付き合え。」





その資材置き場は、しばらく使われておらず、ヤンキーのたまり場となっていることは学校の友人の間でもたまに話題になっていた。そこに自分が連れて来られることになろうとは。
トラックが止められるように高く作られたコンクリート壁に、屋根がわりのプラスチック板が渡されただけという簡素な作りと年期が入っていることもあって、廃墟に似た寂しい雰囲気を持つそこは人を寄せ付けつけない。なにか悪事をするには最適の場所だな、と盛親は思った。
突き飛ばされて放り込まれると、むき出しになった鉄管に後ろ手に縛られ、あっという間に財布の中の野口英世が取られた。
それから、気の向くままに軽く蹴りあげられ、転がっていた鉄パイプで脇腹を殴られ。
しかも奴等は次々と仲間を呼び、気付いたら50人はくだらない人数。
できるなら、早々にフルボッコにして放してほしかった。どちらかといえば家の昼飯のほうが大事だし、と、唇を尖らせて壊れた天井からのぞく空を見上げた。
その様子がどうやら気にくわなかったらしい。
一人のちょっと脂ののったスキンヘッドが近づいてきた。

「おいコラ。オメー、ナメてんのかあ?」
「別に。」
「中坊のくせにこんな頭しやがってよお!わかってんだろうなあ!?」
「生まれつきなんだからしょうがねぇだろ・・・」
「誰が口利いていいっつったよ。」
「ッ!」

左頬にくらった拳は勢いばかりで、親父の鉄拳や隆景の蹴りに比べれば全然痛くない。手を縛られていなければ軽々と避けてカウンターをくれてやったのに。盛親は口の中に滲んだ血をぶっきらぼうに吐き出した。
マナーモードにしている携帯が学ランの中でひっきりなしに鳴っている。兄貴たちだな。腹空かして待ってるだろうから、帰ったらたっくさん具を入れて炒飯作ろう。



「コラーーーーーー!!!!!!!」



突然の大きな声に、ヤンキーたちは全員背中を縮こまらせた。
が、しかしその声はどちらかというと間抜けな部類で、ヤンキー共も盛親も一斉に声のしたほうを振り向いてみる。


「げ・・・っ」 「一つ!ひ、ひ、ひ、人の弟に何すんだ!」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「和っ、ホラ二つ目!」
「えっ!?二つ、ふ・・・フィギュア・・・ガン○ムフィギュアの背中のパーツの塗装を変えたいです。」
「三つ!未経験でも即ハメ「わあああああ!」
「ちょっとっ盛ちゃん!人が話してんのに口出さないでよ!」
「言わせられるかあぁ!打合せナシならやるんじゃねえ!」
「あ、盛。元気そう。」
「つーか何食ってんだそれ!」
「あんパンです。」
「僕の顔をお食べよ。」
「いらねーよ!」
「盛ちゃんいらないってー。」
「じゃあ俺もらう。」
「いい年してアンパンマンネタ使うな!つーか手ェ縛られてるから食えねーよ!」
「縛られてるんだあ・・・。」
「興味持つな馬鹿!」

変なのが来た。
そこにいた全てのヤンキーたちの頭の中に、そんな言葉がよぎった。
ずっと奥でニタついていた総長(ものすごいリーゼント!全身日焼け!)に幹部クラスの奴等がヒソヒソと声をかける。あの様子ではサツじゃないようだ。どうする?やっちまいますか?と。
気を取り直し、総長は歴代総長しか持ってはいけないという伝統の木刀を抱え直し、レザーマスク越しにヤニで潰れた声をあげた。

「お前等!俺等になんか用か!?」

信親はゆっくりと一歩二歩と足をすすめ、総長に尋ねる。にこやかに笑っているのが不思議と怖い。

「その、あんたの後ろで縛られてるの、うちの弟なんだ。何かしたなら謝るけど、弟は何かしたのか?」
「ああん?」

ヤンキー共は顔を見合わせ、何がおかしいのかゲラゲラと笑いだした。白い長ランが野卑た笑いを含みながら木材を弄び近づいてくる。

「ああ。お宅の弟さんですねえ、俺等にガン飛ばしたスよお。銀髪で学校に登下校させて一体どういう教育なさってるんですかあ? 」
「・・・・・・・・。」

信親は何もいわず、総長の向こうにいる盛親を見た。
数人に取り囲まれて呆れたようにしている盛親は、何回か殴られたのか、少し頬が腫れている。また、盛親の少し前には見覚えのある財布が落っこちていた。何度か踏まれたのか埃っぽい足跡がある。きっと中身は抜かれてしまっただろう。
親和も親忠も、何も言わない。

「つーわけですからあ、おにーさんたちもちょっとツラ貸せェェェ!!」

気がつくと自分たちも血気盛んなヤンキー共に取り囲まれていて、信親は弟たちにサッと耳打ちした。

「ここでこいつらぶん殴っても、盛親の進路には支障ないかな?」
「景ちゃんはいいっていってたよ?」
「むしろこのまま帰ったら父上に怒られると思います。」
「だよな!じゃ、片づけるってことで。」

一瞬の話合いののち、兄弟は方々に散った。


「う〜、こんなに暴れるの何年ぶりだろ!」


信親は飛んでくるバットや鉄パイプを軽々かわしながら嬉しそうに目を細めた。
空気が刃のように頬を掠めてゆく感覚は、確か500年ぶりぐらいか。昨日のことのようについ懐かしんでいたら横からチェーンが飛んできて、腕を絡めとられた。

「いい気になってんじゃねーぜ!」
(懐古する暇もない、か。)

腕のチェーンを、投げてきた奴もろとも力一杯振り回してやると数人が吹っ飛んでいった。背後から迫ってきた男はチェーンを巻きつけた拳で裏拳を、前から飛び込んできた奴のどてっ腹に中段蹴りをくれてやると一気に信親の周りは誰もいなくなった。

「さて…。」

それより少し奥のほうでは、親和が囲まれていた。
ちゃんとあんパンを食べた後に錠剤を飲んだし、咳もなくなり喉の具合もよくなっている。が、薬の副作用なのか少し足どりがおぼつかない。その様が奴らには一番弱そうと映ったのか、一番取り囲む人数も多い。
どうしたものか、と小首を傾げて考える。
今日は昨日届いたプラモ達に塗装しようと考えていたところだったのだ。
それが全部台無し。処方してもらった栄養剤は高いからあまり使いたくなかったのに。おまけに盛親はあのようにされて。

「僕なりに、おしおきです。」
「ああ!?やってみろよ!」

かかってくる奴らをふらふらふらとかわしながら、コートの中からボトル瓶2つを取り出し、中の液体を男達の顔面めがけてかけだした。

「ぎゃああああ!!」
「わっ、目っ…痛っ………何だコレ!!」
「キンカンです。目に入るとものすごく痛いでしょ?」
「卑怯だぞお前!」

キンカン攻撃を免れた者が親和の背後に回り、もやしのような腕を取った。が、一瞬の間に体が宙を舞い、ドッとすごい音を立てて背中が地面にたたきつけられる。
実はこの男、合気道二段だったりする。

「お薬は用法・用量を守って正しくお使いください・・・・・・・。」

今日は栄養剤のお陰ですこぶる元気。

「ちょっと!アンタどきなさいよ!」

親和より盛親に近い場所で、親忠がソフトモヒカンに革ジャンサングラスをかけた男と口論していた。
相手は見た目ガッチガチの男だが、どうやら中身は乙女らしい。
類は友(?)を呼んだ。
「うるっさいわね!アンタを通すわけにはいかないのよ!うちの愛しの総長の命令なんだから!」
「愛しのぉ!?アンタ目が腐ってるんじゃないの!?あのリーゼントキモ黒豚のどこがいいの!?」
「ハッ、これだから似非は困るわぁ、総長はブラックモアブラックの極太持ってるんだから!」
「うちの春ちゃんのほうがずっといい男だしゴールデンサイズのピンクマグナム持ってるわよ!」
(見たのか?)
「大体ねえ、あんたその銀髪何よ、ドラァグにでもなるつもり?あら、アンタに金払う男なんてどこにも居ないわよね?オホホホホホ!」
「売り買いに手出すほど苦労してないのよ、ビッチなアンタには分からないでしょうねえ、ていうかこんなもんくれてやるわ、どうせ下の毛ツルツルのパイパンなんでしょう!?」

あまり綺麗とはいえないオカマ同士の口争いののち、親忠はプリプリ怒りながら、近くに転がっていたナイフを取り上げ(親和が倒した男が持っていたらしい)、あっという間に自分の長い髪を肩からザックリ切ってしまった。

親忠は、小さい頃自らの銀髪が嫌いだった。
何処に行っても変な目で見られ、学校では苛められ。大好きな兄たちとも違う髪色。同じ銀髪の父・元親に泣きつくと、“ごめんな”と謝られて頭を撫でられてもっと悲しくなった。
でも、盛親が生まれその髪を見た時気づいたのだ。“持って生まれたのはしょうがない。”と。
だからか親忠にとって盛親は兄弟のなかでも特別な存在だ。傲りともとれるだろうが、この同じ頭をした弟をかわいがれば自分も救われるような気がする。
だから、可愛い弟に手をあげた奴らは許さない。

「・・・死ねよ。」

親忠はいつになく真剣な顔で、つかつかとブーツの鳴らして男に近づき、強烈なヘッドバッドをくらわせて気絶させた。
長曾我部一の怪力は頭も固かった。

盛親は、生き生きと暴れ回っている兄たちを目を丸くして見ていた。

(もしかして、助けにきた・・・って奴か?)

複雑な気分だ。有り難くとても心強いけれど、こんな所を見られて情けなかった。
なんだか久しぶりに泣きたくなって地面を見れば、裾の汚れた学ランが惨めだ。

「盛ちゃん!助けにきたわよ〜。」

たたたと駆けてきた親忠は、すぐに盛親の後ろに回って手を縛っていた縄をほどいてくれた。
見慣れない髪型の親忠はいつも通りヘラヘラと気持ち悪く笑っていて、盛親は胸が痛くなって眉根を寄せる。

「あの・・・お前、髪・・・」
「ああ、あれ?あれエクステだよ〜。盛ちゃんは気にしなくて大丈夫だよ?」

嘘だ。
昨日の夜、風呂上がりにあんなに丁寧にドライヤーで髪を乾かしていたのはどこのどいつだ。あれはエクステなんかじゃない、地毛だろ?どうして嘘をついてまで優しくするんだ?

「ごめん・・・」
「え?」
「・・・・・何でもねえ。」
「盛ちゃん。」
「?」
「リベンジしてきなよ。」

親忠が背後の乱闘を親指で指す。
さっきより敵の数が少なくなった。
信親は木刀片手に敵を倒している様は誰よりも喧嘩を楽しんでいるようだし、親和はまだ気絶していない敵の顔をのぞき込んで、キンカンをかけるという鬼のようなことをしている。
残っているのは、さっきからじっと構えている総長と、バイクをふかしてニヤつく副総長らしき奴等とその取り巻きだけと見た。

「じゃ、俺あいつら片づける。」
「はいはい、行ってらっしゃい。」

数時間ぶりに立ち上がり、空腹ということもあって軽く目眩を起こしたが、負ける気はしない。
盛親は手の関節をバキバキ鳴らしながら、総長のほうへ静かに歩いていった。



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現パロの長曾我部の息子たち。