斥候の告白(捏造主人公+?)

※グロ的な意味で18禁です。
捏造主人公なうえ死にます(夢ではありません)。




我が主君は、現在は明智光秀様です。
元は百姓の出の私を、“顔が平凡すぎて誰の心にも残らない。それなのに頭の回転が早い”といって取り立てて下さったのは、斎藤道三様でした。それから私は少し忍の真似事などを得て、偵察を主な生業として働いておりました。
道三様が討死なさってからは、流れ流れて道三様の遠縁にあたる光秀様に仕えることになったのです。

光秀様の命は、重要なものからごくごく私的なものまで様々でした。 戦場で伝令として駆け巡ったり、蘭丸様へ光秀様の文を持って行ったり(文を見た途端、蘭丸様は怒り出してしまいました。)、城下の農民を少し連れてこいと言われたり。(集めた農民達は光秀様の新しい武器の試し切り用として使われました。)
そんな風に足として使われる私は、狂気の権化と言われる光秀様の・・・いわゆる死の命令を、どこか客観的に見ていました。

光秀様から、また下知が下りました。
今度は少し遠出をしなくてはなりません。中国の毛利へ行ってこいとの下知でした。
なんでも、毛利では頻繁に処刑が行われているようなのですが、どういうわけかその様子は絶対に外に漏れない・漏らさない・故に誰も見たことがないというのです。
そこに興味を示したのが光秀様でした。

「誰がどのような手を使って、じっくりゆっくり残酷に嬲るのか、それとも一息も入れずに一瞬の恐怖を与えるのか。是非とも知りたいですねえ・・・・・・・・・頼みましたよ・・・。」

と、元々毛利に興味を示していたということも手伝い、さも嬉しそうに光秀様はニタリと笑っていいました。



早速私は中国へ走りました。
すると、吉田郡山城下高札場付近に、つい昨日処刑された者の晒し首がありました。
全部で5つ。
粗相を起こした毛利兵だそうですが、表情がまた奇妙で、見開いた目を血走らせ断末魔が聞こえてきそうな怨恨の表情をしている者、かと思えば、目を閉じて唇の端に笑みを讃えている者、そして、目を見開いてはいますが、恐怖とはまた別の何かに驚愕しているような・・・。
彼らは一体何を見たのか。光秀様の命とは別に、己の好奇心から私はその処刑人が誰なのか知りたくなってきました。

首の太刀筋を見ると、迷い無く真横一文字に斬ったことが伺えます。
よほどの腕が立つ方。よく、討ち首の処刑は最下層の者たちにやらせている大名がいますが、あの者たちの腕はまちまちなので、何度も斬りつけた跡があったりしてひどく汚いものが多いのに。
しかし、この方は綺麗にスッパリと。見惚れるほどに綺麗な太刀筋で、いよいよ私は処刑人を城の中の人物へ絞り出すことにしました。



そして現在、私は牢獄にいます。
毛利の牢獄です。
元は忍ではなく、主に戦場での偵察で働いていたものですから、城内に忍び込むなど馴れないことをしたのが運の尽きでした。
ひっそりと佇むこの山城は一見なんの変哲もない質素な城ですが、床の下、壁の裏、天井裏、井戸、堀切どこにでも本当の忍がいました。

拷問はあってないようなものでした。
毛利では毛利元就の嫡男であるという毛利隆元、という人が拷問役のようで、極めて温厚でいつも柔和に笑っている、少し頼りなげな男で拍子抜けしました。
拷問役・・・というと、とても粗暴で極めて残酷な・・・あえて言えば、光秀様のような方が行うのだと勝手に思っていたものですから。
はじめて隆元サンにお会いして、舌を噛み切ろうとしたとき、咄嗟に「おやめ下さい!」と、心底やめてほしいと願っているように叫ばれた時は、つい力を込めた両顎を止めて、じっと見つめてしまい、「手荒な真似をしてすみません。」の一言に、こんな方があの毛利元就の嫡男かと、私は感嘆に背中が震えたのを覚えています。

今日も隆元サンがやってきました。
どうやら、私はとある期日を過ぎると首を刎ねられるそうです。
でも私は、頭の片隅で、”私は大丈夫だ、生きながらえる”と何の根拠もないのに考えていました。

「どうか、おっしゃってくださいませんか。このままでは、貴殿の首が飛んでしまう。私はそれだけは避けたいのです。」
「・・・・・・・・・。」
「今、口を割っていただければ、このまま逃がしましょう。」

このまま光秀様の名前を言ってもいいかと思いました。
命令が命令だけに、口を割っても光秀様にはなんら支障のないことでしょうし、 私自身、光秀様には拾ってくださった恩義はあまり感じたことがないですし。
けれど、私は欲が芽生えてしまったのです。
私は今とても嬉しいのです。
このまま処刑される時まで待てば、処刑人の顔を見ることが出来るではないですか。
隆元サンや光秀様からすれば、ほんのささいなことかもしれませんが、今まで特に欲などなかった私にとっては、とても重大なことなのです。

「今日も、おっしゃってはくれないのですね・・・。」



ぽつりと、寂しそうに隆元サンが呟きました。



と、同時に突然辺りに溢れ出したものが。
殺気。
冷たさと静けさが混ざり合い、私は何が起こったのかまったくわからず、隆元サンを見ました。
隆元サンから笑顔は消えていて、変わりにあったのは無表情で、音もなく腰の刀を抜いたのを見て、私はそこでやっと悟りました。

「・・・・・・・・・あなたが・・・・・・・・・」

この城に来て初めて口を開いて出た言葉は、届いていないようでした。
事実を知ることはできましたが、全然嬉しくない。
隆元サンを信じていたわけじゃない、最初から敵同士、こういうことも想定できたはずだ。
いや、違う。
自分が平凡で狂気とは無関係だと思っていたのは全くの傲りで、光秀様に仕えていた時点からすでに…否、道三様に仕えた時点からすでに、足をつっこんでいたんだ。
私はどうなる?
逃げ場は?
さあ、今なら持ち前の頭の回転の速さを発揮する時じゃないか?
しかし、対抗できる武器も武術もない。
死にたくないと気が付いた頃にはもう逃げ場は無くて、牢の隅に向かって這い蹲るようにしても、全く意味はなかった。
何か、言葉を、まくし立てたような、気がする。
命乞いのような貶し言葉のような賛美の言葉のような悲鳴のような今更生を願う言葉を。
死にたくない、死にたくない!

「ま、待って下さい!私はただの農民でっ、あ、あ、あけ」

私は空を飛びました。
せっかく主君の名前を言おうと思ったのに、私が光秀様に仕えている証明がどこにもない。
今更百姓だといっても、誰が信じてくれましょうか。
私は、死んだらどこに葬られるのでしょうか。
そういえば、お金だってもらってない。光秀様は、私をただの“物”として見て、いたのですね・・・。 最後にこの目に映ったのは、牢から立ち去っていく隆元サンの足元でした。


光秀様、毛利の処刑は残酷ですよ。
処刑人は優しく、残酷で、からくりのような目をした非道い男です。
末恐ろしい方だ…







隆元が二重人格だったら、みたいな。