目眩(現代長曾我部兄弟)


このクソ暑い夏。
長曽我部家に突然それはおとずれた。


エアコンがぶっ壊れた。


ムサ苦しい大男ばかりのこの所帯で。
また、充実しているOA機器やAV機器のせいで、熱が籠もりやすいこの家のエアコンが壊れたということは、夏の生命線を絶たれたといっても過言ではなかった。
こういう時に限って、機械に明るい父・元親は遠くの港に出てしまったし、いつも世話になっている電器屋は休み。
気休めに家の窓という窓を全開してみたけれど、効果を感じることはない。
世は夏休み期間ということもあり、長曽我部家には兄弟全員がいた。
まず悲鳴を上げたのは、暑がりの親忠。

「ちょっとおおおお!どうすんのよ、あたし死んじゃう!」
「あああ・・・叫ぶな、また暑くなる・・・。」
「盛親がぐったりしていますが。」
「和は元気そうだね。」
「暑いのは大丈夫なんです。寒いほうが苦手ですから、僕。」

といって、一人ピンピンしている次男は、悠長に扇子で自分を仰いでいる。

一応、手だては色々考えた。
手っ取り早く、他の場所に逃げこむとか。
信親は隣の毛利家に避難しようとした。
しかし、温厚な長男は不在。元春と隆景はいたが、鬼気迫る程に真剣に勉強していたものだから、入りづらくて帰ってきてしまい、着ていたTシャツを脱ぎ捨てて床に転がった。

水風呂に入ってみるとか。
盛親はバスタブに水を張ろうと蛇口に手をかけたところで、今月は節約しないといけないことを思い出した。
頭の中でこの暑さと家計簿を天秤にかけてみる。
節約しなければ・・・しかしこの暑さは非常事態。
ならばと、二つのバケツに水を張り、リビングに持ってきて、一つのバケツにそれぞれ片足ずつ突っ込んだ。

「あ〜・・・なんでよりにもよって電器屋さん休みなのよ・・・。」
「親忠、そんなに暑いなら脱げばいいじゃないですか。」
「信兄なんてもう半裸だぞ。」
「嫌よ!日焼けしちゃうでしょ!?それに半裸なんて中途半端は嫌よ、信ちゃん全部脱いじゃえばいいじゃん!」
「・・・それは・・・ああ、でもパンツだけ残せば・・・」

親和は涼やかに辺りを見回す。
盛親はジャージの裾をたくし上げてバケツに足を突っ込み。
親忠は薄いピンクのカーゴパンツを着、不思議なレースが沢山付いた白いカットソーに半袖カーディガンを羽織っている。また手にはブレスレット、耳には大きなピアスがジャラジャラ・・・。
見るからに暑い。
その横にはパンツ(トランクス)1枚になった信親が、死体のように床に転がっていた。
無法地帯だ。

「・・・僕はエアコンがなくて快適ですけどね。大体親忠はエアコンの設定温度を低くしすぎるんです。なんですか19℃って。」
「だって暑いんだもん!和ちゃんだって、冬になったら設定温度30℃にするじゃない!」
「だって寒いんですもん。」
「も〜。なんで扇風機がないわけ?和ちゃん扇子でこっちも扇いでよ、一人だけずるいよ!」
「嫌ですよ。」
「だああああッ!ウルセーんだよッ!喧嘩は外でやれ!」

珍しい親和VS親忠の喧嘩に盛親が吠えた時、玄関のチャイムが鳴った。
気づいた信親は、よろよろとソファから立ち上がり、置いてあったタオルを首に引っかけて風呂上がりのような風貌で玄関へ向かった。
もうなんだか、頭が朦朧とする。

「はい・・・。」

うつむいたまま力無くドアを開けると、黒いスニーカーを履いた、濃いジーンズが目に入った。
二本の足を下から上へ、辿っていくと。

「あ・・・。」

隣の毛利家の長男・隆元が目を丸くさせてこちらを見ていた。

「隆元・・・。」
「・・・。は、あ、あの、信親殿・・・その・・・・・・さっき、家に・・・参られたというので伺いましたが・・・どうか、されました?」
「・・・ああ。うん・・・家のエアコン壊れてね・・・。ちょっと毛利に居させてもらおうかと思って・・・。」
「そうですか、それならば是非おいで下さい。何か冷たいものをご用意しておきますよ。・・・・・・・・・あの、お節介かもしれませんが・・・」
「うん?」
「ふ、服は着たほうがいいですよ?」
「服?・・・ああ、服ね。服・・・・・・・・・・・・・服〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」

言われて気づいたがもう遅い。
バタンとドアを破壊する勢いで閉め、部屋にダイブしてTシャツにズボンを着たが。
そのまま、信親はリビングのソファに崩れ落ちてしまった。

「どうしたんですか?兄上。」
「隆元に・・・裸見られた・・・。」
「いいじゃん、減るもんじゃないし。」
「もうお婿にいけない・・・。」

弟たちは隣の長男が帰ったと聞いて、いそいそと毛利家に避難し始め、夕方に元親が帰ってくるまで居座ったという。







なんぞこれwww
以前暑中見舞いに書いた話です。