秋、白昼夢(無双現代毛利家)






いつも夜遅くまで自分の研究室にいる元就だが、今日は何となく早く帰りたくて、4コマの演習が終わるとそそくさと研究室を後にした。

どうして早く帰りたいのか、よくわからない。
いつもより少し早めのバスに乗ってしばらく経った時、ふと思いついて途中下車し、この辺りでも美味しいと有名な和菓子屋で饅頭と生菓子を幾つか買って、再びバスに乗った。

手土産の和菓子と鞄を膝に乗せつつ、シルバーシートに腰を下ろした元就に、眠気がやってきた。
うとうととした元就の瞼の裏に一瞬、誰かが白い床に横たわっている姿が映った。
眠っているのではない。死んでいる。
とてもとても悲しいその亡骸は・・・
はっと目を開けてみると、窓の外の風景はいつもと同じ。
はて、あの姿は誰だったか。
死んだ妻ではない。
誰だろう、思い出せない・・・。

(やれやれ・・・記憶力は衰えてはいないはずなんだが。)

元就は後頭部を小さく掻いて溜息をついた。

いつものバス停で降りて、通勤途中にあるコンビニで珍しくビールを買った。
元就自身、あまりコンビニを使うことはないし、酒も最近は控えているのに今日はどうしてか飲みたい気分なのだ。しかも1本ではない。4本もある。

そうして自宅までの道のりを歩んでいると、夕暮の町にヴァイオリンの音色が聞こえ始める。
三男の隆景の練習の音色だ。
一体誰に似たのか、隆景は音楽の高校へ進学し、コンクールでもそこそこの賞を取っている。
日本家屋の一軒家。門をくぐると縁側に小さな机を持ってきて何か書いている元春の姿が見えた。その隣には蚊取り線香。今の季節は晩夏とはいえ暑いから、ここで作業をしているらしい。
この次男坊は己の変なところが似てしまったようで、体育系の大学に行くのかと思いきや、文学部に進学すると言って仰天した。
そして。

「ただいま帰ったよ。」

カラカラと玄関を開けると、奥の部屋からひょっこりと顔を出したのは長男だった。
長男隆元は、地味に大学を卒業し、地味に働きながら地味に過ごしている。時々絵を描いたり、近くのホールに赴き観劇もしているようだが。それでも、この家の家事や家計のやりくりをしているのはこの長男であるから、あなどれない。

「父上、おかえりなさい。今日は早いのですね。」
「ああ。少し早めに切り上げてきたよ。お前も今日は早いんだね。」
「は、はい。私も今日はなんだか早く切り上げたくて・・・残業も全て終わらせてきました。」
「あはは、そうかい。あ、これお土産だよ。あとで皆で食べよう。」
「ありがとうございます。では、元春と隆景も呼んで、夕飯にしましょうか。」

そういって隆元に和菓子の包みを渡した元就は、妙な既視感を覚えた。
そんな類は信じないが、ギシギシと床を踏んで台所へ向かう隆元のほうを振り向いた。
隆元をついて歩く猫が、こちらを向いてニャアと鳴く。
まるで、早く思い出せと言っているようだった。

が、その猫の向こうにいる隆元の背中を見たら、妙に嬉しくなって、元就は玄関から思い切り立ちあがった。

「さて!今日は久しぶりに飲むぞ!隆元も付き合うんだよ!もちろん元春も、隆景も!」
「ち、父上・・・あの、隆景は未成年・・・」
「舐めるくらい、ね。あとは私とお前で飲もう。」

不安気な長男にぱちりと片目をつむってやると、嬉しそうに隆元は笑って、再び台所に消えて行った。

(ああ・・・)
(なんだろう、幸せだなぁ。)

早速茶の間に腰を下ろし、待ってましたと言わんばかりに猫が膝の上に乗って来、元就はぼんやりと漂うような幸せを感じながら、ビールのプルタブを開けた。









初めて書いた無双毛利家です。
無双元就様
・大学の教授
・大きめで古い日本家屋に息子三人と猫一匹と一緒に住んでる
・自宅の自分の部屋、そして研究室は本でなんか酷い有様
・結構自分のことはどうでもいい
・教授より作家になりたいけど、そっち方面には向いてない。

無双隆元
・地味にサラリーマン
・家の家事と家計担当
・妙に金運がいい。(おばあちゃんを助けたら20万貰ったとか、宝くじで100万当てたとか)
・ちょっとどもり癖がある
・はっきり言う時は言う
・空気を読む天才(テレビが壊れたらまず説明書。)

無双元春
・いかつい男子大学文学部生
・体育も文学も好きなだけなんです。
・お兄ちゃん思い。
・時々家では留守番担当。本人はどう思っているのか分からない。
・時々力づくで何とかしようとする(テレビが壊れたらまず叩いてみる)

無双隆景
・毛利で育ちなんの化学反応が起きたのか、音楽に目覚めた音楽学校高校生。
・専攻はヴァイオリン。
・なんかよくわからない優雅さ。
・時々力づくで何とかしようとする元春と喧嘩する。(テレビが壊れたらまず配線確かめる)
・私は「ピューっと弾くカゲーさん」とこっそり思っている。