トリック・オア・トリート!(現代毛利家)






「トリックオアトリート。」

玄関ドアを開けた瞬間そこにいたのは隣の毛利三兄弟で、なぜか兄弟縦に並んで待ち構えていた。その順は前から、隆景・元春、そしてこちらを覗くようにして苦笑いを浮かべている長男隆元で、信親はしばしその場で固まってしまった。
しかも3人全員がどうしてか吸血鬼のような格好をしていて、隆景に至っては最初の一言を言ったきり無言のまま、片手をこちらに掌を差し伸べて睨みつけている。
信親は隆景が言った一言目を反復しながら、今日はなんの日か理解し、この状況にも何となく合点がいった。

「・・・ええ〜と・・・お、菓子?」
「菓子を寄こさぬとあらば、我ら如何なる手を使ってでもこの邸にありとあらゆる仕掛けを施すが・・・」

隆景が黒いオーラを出し始めたのを諌めるように、一番後ろにいた隆元が黒いマントを翻して前に出てきた。

「信親殿突然すみません。弟たちが今日はハロウィンと気付いた瞬間にどうしても隣にお菓子を貰いに行くと言いだして・・・。」
「ああ、そういうことなら大丈夫。昨日盛親が沢山クッキー焼いてたから。俺等兄弟はあんま甘いの好きじゃないし手はつけてないはずだから、確かあれ、残ってたよなー・・・。」

といいながら、家の奥へ戻っていく信親の後をついて歩く真っ黒な毛利三兄弟である。
キッチンへ向かえば向かうほど甘い匂いがしてきて、甘いものに目がない3人は思わずごくりと喉を鳴らした。
そして、キッチンカウンターの上にあった大きめの箱の中には、沢山のクッキーがたんまりと入っているではないか。
信親はその箱ごと、隆景に渡してにっこりと笑った。

「はい、これでいいかな。」
「・・・。いいだろう。」

眉間に皺を寄せ、どこか生簀かない表情をした隆景と、笑いながら舌打ちをした元春の代わりに、隆元は手厚く礼の言葉を述べ、そして再び玄関へと戻っていく。

「ねえ、その服なんだけどさ、どうしてお揃いなの?」
「ハロウィンが近いと知った父上が会社から持ってきたのですよ。私は弟たちのついでみたいなものですが・・・。ところで、どうして盛親殿はこんなにクッキーを?」
「学校でお菓子くれってたかられるんだってさ。盛の料理美味いからさあ。で、隣からもくるだろうって見越して大量に作ってたよ。」
「そうですか。あ、それから、信親殿。」
「?」

隆元は懐に手をやり、片手に収まる程度の小さな小箱を持ってそれを信親に手渡した。

「この件の礼です。中はボールペンですが、どうぞ使ってください。」

そして黒いマントを翻して去って行った隣人の背中を見ながら、信親は考える。

(・・・行かないつもりだったけど、俺もトリックオアトリートって言いたくなっちゃったじゃないか)



その数時間後、お菓子を求めに毛利家へ行った信親は、いたずらという名の制裁を受けて玄関を跨ぐことすら許されなかったという。









前日の長曾我部家は、盛ちゃんがせっせとクッキーを焼いてました。
ラッピングは親忠担当。時々当たりとして親和がワサビ入りクッキーを忍ばせてます。
うちの盛親は家事全般出来る子。学校の調理実習ではアイドルで、家庭科の成績は常に5です。